『だけど現実にはただのキョロ充だったわ。なんかグループトークもあたしがいないやつできてる気がするし』
チクリと胃が痛む一言に、あたしは鏡をぶん殴りそうになる。
わかってるって。
うすうす気づいてた。
最近あたしたちのグループトークの使用頻度が減っていること。
多分、あたし抜きのグループができてるってこと。
妄想なんかじゃない。
あたしの抜きでディズニーだって行ってるはずだ。
むなしい。
かっこ悪い。
みんなと同じ土俵に立ちたくて努力を重ねてきたっていうのに。
何も手にしていないあたし。
みんなにキラキラしてる子って思われたくて努力を重ねてきたっていうのに。
全然キラキラしてないあたし。
『だから誰か見下せる人がほしかった』
鏡の中のあたしが言う。
そうだ。
誰でもよかった。
自分よりみすぼらしい子を探して、嗤いたかった。
最低な人間だ。
いつからこんな最低な人間になったんだろう。
やっぱり高校に入ってからなのかな。
身の丈に合わない私立学校なんて入っちゃって。
自尊心を磨りつぶして毎日登校することになるなんて、思ってもみなかった。
『中学のころのあたしってどんなだっけ』
促されるように、手にしていたスカートに履き替える。
流行遅れのミニスカートを。
きっとダサいと感じるだろうと予感しながら。
でも違っていた。
それを履いた自分を鏡に映してみると、案外ダサいとは感じなかった。
むしろ、あたしの細い足が強調されて、さっきまでより足が長く、スタイルよく見えない?
『初めておしゃれした日のこと、思い出すね』
その言葉にはっと背筋を伸ばした。
鏡の表面が、池に石を落としたときのようにゆらゆらと揺れた。
そして映し出されたのは、中学時代。
生まれて初めてファッション雑誌を買った日。
その切り抜きを鞄に忍ばせて服屋へ友達と向かった日。
友達と双子コーデを楽しんだ日。
気になっていた男の子との初めてのデートで、ミニスカートを褒めてもらった日。
服の力であたしはこんなにもかわいく見えるようになるんだ。
服の力であたしはこんなにも自分に自信が持てるようになるんだ。
――そんな風に思ったんだ。
あいつをばかになんてできない。
あたしにだって、服のこと、メイクのこと……何も知らない日があったんだから。
そう思ったとき、鏡から過去の映像は消え、もとの鏡に戻った。
スカートを試着するあたしが映されている。
あいつは体育祭の打ち上げでワンピースを着てきたとき、すごく自信に満ちた顔をしていた。
あれはあの服が持っていた力なんだ。
あの服があいつを変えた。
あたしがかつて通った道だ。
その道をほかの誰かが通ることに、あたしは嫉妬しているだけなんだ。
それこそ、ダサすぎる。
「あたしに本当に似合ってんのって、こういうスカートなんだ」
気づけば呟いていた。
今まで無理して背伸びして、似合おうが似合わなかろうが、ただひたむきにトレンドだけを追いかけてきた。
SNSで映えるもの。いいねがもらえるもの。人に自慢できるもの。
そういうアイテムで身の回りを固めまくっていた。
それも、ダサすぎる。
みんな知ってるんだ。
あたしが匂いすぎること。
自意識の匂いがプンプンすること。
さっきの白猫ちゃんが顔をしかめたように、みんな内心であたしの匂いから遠ざかりたくて仕方なかったんだ。
でもこの鏡を見てわかった。
トレンドが正義なんかじゃない。
本当にあたしの魅力を引き出してくれるアイテムこそ、正義なんだ。
きっと大人はみんなわかってる。
わかってて、黙ってクールにそれをこなしてる。
できないあたしが子供なだけ。
明日からやめよう。
あんな香水ぶんぶん振りかけるのは。
あたしの匂いでやっていくんだ。
チクリと胃が痛む一言に、あたしは鏡をぶん殴りそうになる。
わかってるって。
うすうす気づいてた。
最近あたしたちのグループトークの使用頻度が減っていること。
多分、あたし抜きのグループができてるってこと。
妄想なんかじゃない。
あたしの抜きでディズニーだって行ってるはずだ。
むなしい。
かっこ悪い。
みんなと同じ土俵に立ちたくて努力を重ねてきたっていうのに。
何も手にしていないあたし。
みんなにキラキラしてる子って思われたくて努力を重ねてきたっていうのに。
全然キラキラしてないあたし。
『だから誰か見下せる人がほしかった』
鏡の中のあたしが言う。
そうだ。
誰でもよかった。
自分よりみすぼらしい子を探して、嗤いたかった。
最低な人間だ。
いつからこんな最低な人間になったんだろう。
やっぱり高校に入ってからなのかな。
身の丈に合わない私立学校なんて入っちゃって。
自尊心を磨りつぶして毎日登校することになるなんて、思ってもみなかった。
『中学のころのあたしってどんなだっけ』
促されるように、手にしていたスカートに履き替える。
流行遅れのミニスカートを。
きっとダサいと感じるだろうと予感しながら。
でも違っていた。
それを履いた自分を鏡に映してみると、案外ダサいとは感じなかった。
むしろ、あたしの細い足が強調されて、さっきまでより足が長く、スタイルよく見えない?
『初めておしゃれした日のこと、思い出すね』
その言葉にはっと背筋を伸ばした。
鏡の表面が、池に石を落としたときのようにゆらゆらと揺れた。
そして映し出されたのは、中学時代。
生まれて初めてファッション雑誌を買った日。
その切り抜きを鞄に忍ばせて服屋へ友達と向かった日。
友達と双子コーデを楽しんだ日。
気になっていた男の子との初めてのデートで、ミニスカートを褒めてもらった日。
服の力であたしはこんなにもかわいく見えるようになるんだ。
服の力であたしはこんなにも自分に自信が持てるようになるんだ。
――そんな風に思ったんだ。
あいつをばかになんてできない。
あたしにだって、服のこと、メイクのこと……何も知らない日があったんだから。
そう思ったとき、鏡から過去の映像は消え、もとの鏡に戻った。
スカートを試着するあたしが映されている。
あいつは体育祭の打ち上げでワンピースを着てきたとき、すごく自信に満ちた顔をしていた。
あれはあの服が持っていた力なんだ。
あの服があいつを変えた。
あたしがかつて通った道だ。
その道をほかの誰かが通ることに、あたしは嫉妬しているだけなんだ。
それこそ、ダサすぎる。
「あたしに本当に似合ってんのって、こういうスカートなんだ」
気づけば呟いていた。
今まで無理して背伸びして、似合おうが似合わなかろうが、ただひたむきにトレンドだけを追いかけてきた。
SNSで映えるもの。いいねがもらえるもの。人に自慢できるもの。
そういうアイテムで身の回りを固めまくっていた。
それも、ダサすぎる。
みんな知ってるんだ。
あたしが匂いすぎること。
自意識の匂いがプンプンすること。
さっきの白猫ちゃんが顔をしかめたように、みんな内心であたしの匂いから遠ざかりたくて仕方なかったんだ。
でもこの鏡を見てわかった。
トレンドが正義なんかじゃない。
本当にあたしの魅力を引き出してくれるアイテムこそ、正義なんだ。
きっと大人はみんなわかってる。
わかってて、黙ってクールにそれをこなしてる。
できないあたしが子供なだけ。
明日からやめよう。
あんな香水ぶんぶん振りかけるのは。
あたしの匂いでやっていくんだ。