九月の二週目の週末に、地図アプリで検索していた例のブティックへ一人で行くことにした。
 誰も誘わなかった。
 しょうもないあたしのプライド。

 地図アプリのレビュー欄を見ると、肯定的なコメントが並んでいる。

 曰く、『福を売るお店』。
 あいつが言っていたとおりのコメント。
 何それクサすぎる。
 絶対おばちゃんたちが買いに行く、垢抜けない服屋に決まってる。
 いつだって最新の流行をSNSで追い続けているあたしのセンスに合うはずがない。

 だけど、どうしてだろう。
「見に行かない」という選択肢はあたしの中には存在していなかった。

 あいつの行く店のセンスを鼻で笑ってやりたいから?
 それだったらネットの情報で十分じゃん。
 地図アプリにはすでに大量の店舗の内と外の写真や商品写真が出てきている。
「どれもブランドものじゃないよね」って誰かと陰で囁き合うには十分な量の素材がそろっている。

 違う、そうじゃないんだ。
 なんだかよくわからないけれど、あたしの心のどこかが叫んでいる。

『その店に行った方がいい』って――。


#バス乗るよー #行き先はひみつ

 若干緊張しながら駅の5番バス乗り場から「○×キャンプ場行き」のバスに乗る。
 乗客は季節遅れのキャンプ客がほとんどだ。
 バスはあっという間に市街地を離れ、どんどん山道を登り出す。
 本当にこの先に商店街があるのか疑わしいな、と思った矢先、山が開け大きな病院と集落が現れた。

 停車ボタンを押し忘れていて、運転手さんに平謝りして降ろしてもらう。
 かっこ悪っ。
 顔が熱くなる。
 でもバスの中に知り合いが一人もいないのだから、こんなに顔を赤らめる必要もないんだ。

#秋の匂い #エモすぎる

 バス停に降り立つと、秋の匂いがした。
 すごい。秋の匂いってわかる。
 キンモクセイとか、そういうわかりやすいやつじゃない。
 ちょっと寂しくなる、心の端っこがきゅってなる匂い。
 秋晴れで雲が高いところに見えるから、余計にエモい。
 道端で揺れるすすきが、なおのことエモい。

 地図通り道を進んでいくと、商店街はすぐに見えた。
 だけど、ゴーストタウンじゃないのこれってつぶやくほど、シャッターが閉まっている。
 やばい、地方の過疎化って社会で習うやつ。
 父親方の祖父母の近所もこんな感じだった。

 一応パシャッと一枚撮ったところで、その画角に白い猫が収まっていることに気がついた。

「おいでー」

 しゃがみ込んでいわゆる猫なで声で呼ぶと、すぐにこっちに駆け寄ってきた。
 やっぱり猫は人を選ぶよね。
 あたしを警戒する猫なんていない。

 と思っていたら、あたしの差し出した両手の20センチ手前で猫は「ふしゃー」と不機嫌な声を出して逃げてしまった。

「何それ、ひどっ」

 ふてくされてすっと立ち上がる。
 猫が逃げ出した理由がわからず、ちょっと傷つく。