搾取というキーワードで繋がった私とTシャツ、そしてこの小さなブティック。

 彼女は何も問わなかった。一度だけ、大きくゆっくりと首を縦に振り、静かに次の言葉を待っている。その沈黙に圧迫感はない。

「私は双子の妹なんです。双子だけれど、何もかも違う。親から注がれる愛情の全てを、姉が奪ってしまった。私は言ってしまえば『じゃない方』なんです。
 健康面が心配じゃない方。
 優秀じゃない方。
 可愛くない方。
 褒めるべきじゃない方。
 好きじゃない方。
――常に私は光と影の影として生きることを強いられてきました。

 姉と私が家でいたずらをすると必ず私だけが叱られました。『お姉ちゃんは体が弱いからこんないたずらするわけがない』って。

 小学校でテストを受けて私が100点を取っても『調子に乗るな』と言われるのに、姉が90点を取ると『偉いね』って抱きしめられるんです。
 抱きしめられている姉の勝ち誇った笑顔を見るのが一番つらかった。

 新品を買い与えられるのはいつも姉。私がねだっても『あんたは元気なんだから我慢なさい』の一言でシャットアウト。
 姉はこれ見よがしにその新品を見せびらかしてくるんです。そこで喧嘩になると必ず私がぶたれました。

 下着も教材もろくに買い与えられないので、高校生になってからはアルバイトを始めました。もちろん両親には内緒です。
 だけど、姉には簡単に看破されました。いつも私を監視しているからです。そして両親に告げ口するんです。両親にはバイト代を家に納めるよう強要されました。搾取ってやつです。でも搾取されたのはお金だけじゃない。人生そのものが奪われ続けてきたんです。
 わがまま放題の姉は学校では浮いた存在でした。友達なんて一人もできるはずがないんです。
 だからこそ妹の私に依存していました。わたしを家の中でいじめ倒すことで、自分が生きていることを実感している、みたいな。

 そんな理不尽な仕打ちが生まれてからうちの家では当たり前でした。だから私は私のことをずっとこう思い込んできました。『じゃない方』、特に『生まれてくるべきじゃなかった方』だって」

 そこまで一気に吐露し終えると、私は自虐気味に笑った。
 初対面の人にこんな重苦しい話を聞かせるなんて、やっぱり気が触れているのだ。
 いくら優しく包み込んでくれる雰囲気のお店だからといって、こんな負担をかけてはいけないのに。
 そう、私は他者に負担をかけてはいけない存在なのだから。

「……大げさすぎましたね。
 世界にはもっと苦しみながら生きている人たちがいる。さっきの話じゃないですけど、子どもの頃から学校にも行けず低賃金労働させられ深刻な搾取を受けている子どもだって実際にいる。
 それに比して、私は寝る場所だってあるし、食事も与えられてきたし、大学にも――両親の見栄のためとはいえ――行かせてもらえた。立派に育ててもらいました。
 なのにこんな風に家族を悪く言っちゃいけませんよね。『家族は宝物だ』って言うし……。

 実は知り合いに助言されて、この夏から実家と縁を切って一人で生きていくことにしたんですけど、そんなことできる身分じゃないですね。
 だいたい私がいなければ姉だって健康に生まれてこられたのかもしれない。やっぱり『生まれてくるべきじゃなかった方』なんです。愛されなくて当然です。私だって私のことなんて愛していませんし」

「それは、あなたの本心ですか」