『もっと自分の魅力を引き出せる服がほしいの。彼氏受けなんていらないから、私らしくいられる服がほしい』

 自分の無意識の本音が聞こえた。
【私】のまなざしは決して弱気なそれではない。
 前へと進もうとする強い光がそこにはある。

 きっと私自身もそんな目をしているはずだ。

『あっちにあった服の方が、私に似合うのに』

【私】はカーテンの奥を覗き込むように、じっと私の背後を見つめている。

――どの服のこと?

 カーテンを開くと、私は店内をぐるりと見渡した。

 私を変える服がほしい。
 本当の私を表現できる、最適な服が。

「にゃお」

 いつの間にか店内に現れたイトが、私を呼んでいた。
 その傍らには一台のトルソー。

 イトの白さを引き立たせるかのような、漆黒のレザージャケット。
 王道デザインと言える、Vネックのスッキリしたデザインだ。
 ボトムスには、体に沿うまっすぐの、いわゆるIラインシルエットのスカート。

「かっこいい……」

 無意識のうちに言葉がこぼれていた。
 着ているところを想像しただけで、背筋が伸びる。

 どうしてだかわからないが、たった今思い出したのだ。
 子供の頃から、本当は「きれいな女性」「かわいい女性」よりも「かっこいい女性」になりたいと願っていたことを。

 長い髪をかき上げて颯爽と車を運転する女性の映像が脳裏に浮かんだ。
 そういうシチュエーションがなんと似合うコーディネートだろうか。

「んにゃ」

 早くこれを着てみたら? と深い碧い目が私に語りかけている――多分。
 イケメン猫の誘いに乗じて、私はトルソーに近寄り、そのひやりとした触感に触れる。
 いつぶりだろう、レザージャケットに触るのは。

「ご試着なさいますか?」

 何も細かいことは問わず――例えば「こちらの方がお似合いですよ」とか言ったコメントは挟まずに――そっと必要な言葉だけ差し出してくれる店員さんが、心地よい。

「ええ。お願いします」

 自分で自分の耳を疑うほど、私の声は凛としていた。
 店員さんは先ほどの全身鏡へと私を案内する。

 フェミニンコーデを脱ぎ捨て、ニットとタイトスカート、そしてレザージャケットに腕を通す。

――やっぱり、これだ。

 全身鏡に己の姿を映し出したとき、妙な確信と自信が胸に湧き上がってきた。
 収まるべき場所に自分が収まったかのような、パズルのピースが嵌まったような、絶対的なフィット感。

 見事にサイズも私の体に合っていた。

 ストレートタイプの骨格の良さが、これ以上なく引き出されている。
 Vネックのお陰ですっきりとした顔に見えるのも良い。

「いかがでしょうか?」

 カーテン越しに声を掛けられ、「買います」と即答しようとしたその時だった。

 鏡の映像がさざ波のように揺れた。