ひとりぼっちで食べる食事と、恋人と食べる食事とは、どちらの方がおいしいと世間の人たちは言うだろうか。
 ひとりぼっちで行く水族館と、恋人と行く水族館とは、どちらの方が楽しいと世間の人たちは言うだろうか。
 ひとりぼっちで見る自然の風景と、恋人とみるそれとは、どちらの方が美しいと世間の人たちは言うだろうか。

 きっと、世間は言う。
 絶対に後者だって。
 聞くまでもない。

 そうなんだ。
 そうなんだ。
 そうなんだ。

 彼氏と食べる食事の方がおいしい。
 彼氏と行く水族館の方が楽しい。
 彼氏と見る風景の方が美しい。

 そうでしょ?

 何回も自分自身に対して、言い聞かせたこと。

 こんな私に彼氏がいること自体、ありがたいこと。

 そうでしょ?



 彼とは4年前、つまりは大学入学直後、登山サークルの新入生歓迎会で出会った。1つ年上の先輩。
 つるりと中性的な顔をしていて、細く吊り上がった目が絵巻の中の平安貴族のように涼しい人。
 雰囲気もどこか超越的でお公家さんのようだった。

 新入生の一部の女子の間で強烈な人気を誇っていた。
 平凡で取り柄のない私の手が届くはずもない、殿上人だと思っていた。

 だけど、どういうわけだかその年の冬、私の告白はすんなり受け入れられ、恋人同士になった。

 世界中のアイスクリームをかき集めてきたような甘さ――とでも言えばいいだろうか。
 彼はとてつもなく私を甘やかした。

 重いものはもちろん、軽いものも含めて荷物は絶対に持たせない。
 建物に出入りするときはレディファースト。
 道を歩くときは必ず私を歩道側にする。
 夜出歩くときはタクシーを使う。
 財布は開かせたことがない。

「そんなの、悪いよ」

 毎度丁重にその申し出を辞するのだが、彼は聞き入れない。

「君はお姫さまだから」

 甘ったるい言葉で、私を守る。
 守って守って、守り抜いて。

 周りは羨望の目で私を見つめた。
 恋人にそこまで愛されて、幸せ者ね。羨ましい、と。
 照れくささ半分、違和感半分で、「そんなことないよ」と謙遜したのを覚えている。

『そんなことないよ』――。

 私はどっちのつもりで言ったんだろう。

 他の人に妬まれないようへりくだるためなのか。
 それとも、今の付き合い方への違和感があるからなのか。

 自分の気持ちが見えないまま、かれこれ4年近く付き合い続けている。