ひとりぼっちで食べる食事と、恋人と食べる食事とは、どちらの方がおいしいと世間の人たちは言うだろうか。
ひとりぼっちで行く水族館と、恋人と行く水族館とは、どちらの方が楽しいと世間の人たちは言うだろうか。
ひとりぼっちで見る自然の風景と、恋人とみるそれとは、どちらの方が美しいと世間の人たちは言うだろうか。
きっと、世間は言う。
絶対に後者だって。
聞くまでもない。
そうなんだ。
そうなんだ。
そうなんだ。
彼氏と食べる食事の方がおいしい。
彼氏と行く水族館の方が楽しい。
彼氏と見る風景の方が美しい。
そうでしょ?
何回も自分自身に対して、言い聞かせたこと。
こんな私に彼氏がいること自体、ありがたいこと。
そうでしょ?
*
彼とは4年前、つまりは大学入学直後、登山サークルの新入生歓迎会で出会った。1つ年上の先輩。
つるりと中性的な顔をしていて、細く吊り上がった目が絵巻の中の平安貴族のように涼しい人。
雰囲気もどこか超越的でお公家さんのようだった。
新入生の一部の女子の間で強烈な人気を誇っていた。
平凡で取り柄のない私の手が届くはずもない、殿上人だと思っていた。
だけど、どういうわけだかその年の冬、私の告白はすんなり受け入れられ、恋人同士になった。
世界中のアイスクリームをかき集めてきたような甘さ――とでも言えばいいだろうか。
彼はとてつもなく私を甘やかした。
重いものはもちろん、軽いものも含めて荷物は絶対に持たせない。
建物に出入りするときはレディファースト。
道を歩くときは必ず私を歩道側にする。
夜出歩くときはタクシーを使う。
財布は開かせたことがない。
「そんなの、悪いよ」
毎度丁重にその申し出を辞するのだが、彼は聞き入れない。
「君はお姫さまだから」
甘ったるい言葉で、私を守る。
守って守って、守り抜いて。
周りは羨望の目で私を見つめた。
恋人にそこまで愛されて、幸せ者ね。羨ましい、と。
照れくささ半分、違和感半分で、「そんなことないよ」と謙遜したのを覚えている。
『そんなことないよ』――。
私はどっちのつもりで言ったんだろう。
他の人に妬まれないようへりくだるためなのか。
それとも、今の付き合い方への違和感があるからなのか。
自分の気持ちが見えないまま、かれこれ4年近く付き合い続けている。
ひとりぼっちで行く水族館と、恋人と行く水族館とは、どちらの方が楽しいと世間の人たちは言うだろうか。
ひとりぼっちで見る自然の風景と、恋人とみるそれとは、どちらの方が美しいと世間の人たちは言うだろうか。
きっと、世間は言う。
絶対に後者だって。
聞くまでもない。
そうなんだ。
そうなんだ。
そうなんだ。
彼氏と食べる食事の方がおいしい。
彼氏と行く水族館の方が楽しい。
彼氏と見る風景の方が美しい。
そうでしょ?
何回も自分自身に対して、言い聞かせたこと。
こんな私に彼氏がいること自体、ありがたいこと。
そうでしょ?
*
彼とは4年前、つまりは大学入学直後、登山サークルの新入生歓迎会で出会った。1つ年上の先輩。
つるりと中性的な顔をしていて、細く吊り上がった目が絵巻の中の平安貴族のように涼しい人。
雰囲気もどこか超越的でお公家さんのようだった。
新入生の一部の女子の間で強烈な人気を誇っていた。
平凡で取り柄のない私の手が届くはずもない、殿上人だと思っていた。
だけど、どういうわけだかその年の冬、私の告白はすんなり受け入れられ、恋人同士になった。
世界中のアイスクリームをかき集めてきたような甘さ――とでも言えばいいだろうか。
彼はとてつもなく私を甘やかした。
重いものはもちろん、軽いものも含めて荷物は絶対に持たせない。
建物に出入りするときはレディファースト。
道を歩くときは必ず私を歩道側にする。
夜出歩くときはタクシーを使う。
財布は開かせたことがない。
「そんなの、悪いよ」
毎度丁重にその申し出を辞するのだが、彼は聞き入れない。
「君はお姫さまだから」
甘ったるい言葉で、私を守る。
守って守って、守り抜いて。
周りは羨望の目で私を見つめた。
恋人にそこまで愛されて、幸せ者ね。羨ましい、と。
照れくささ半分、違和感半分で、「そんなことないよ」と謙遜したのを覚えている。
『そんなことないよ』――。
私はどっちのつもりで言ったんだろう。
他の人に妬まれないようへりくだるためなのか。
それとも、今の付き合い方への違和感があるからなのか。
自分の気持ちが見えないまま、かれこれ4年近く付き合い続けている。