早く、記憶が戻ればいいのに……。

思わず、そう呟いた。
黒燁はそんな宙の頬を包んで、額に自分のそれを当てた。

「そう焦るな。記憶など、思い出せないならそれでいいんだ」
「黒燁様……」
「記憶など無くても、お前の心は変わらず俺だけを想ってくれているだろう?」

そう言うと、優しい眼差しを向けた。

ああ、と宙の胸に、温かい感情が溢れる。
この目をよく知っている。
紅い瞳の奥に宿る温かい愛情を、私はちゃんと覚えている。

心が熱を放って、ちゃんと証明してくれている。

泣きそうになるのを堪えて、宙は微笑み返した。

「そうだ、その笑顔だ」

黒燁は宙の頬を包んだ。

「この笑顔を独り占めできるなら、俺はもう過去などいらない。お前と二人でこの先を歩んでいけるのだから」
「はい……」
「愛している、宙」

誓うように目を閉じて、下りてきた唇を受け止めた。

一千年の時を超えた今も、その温もりは甘く優しかった。