縁側に、寝間着姿の黒燁がやって来た。
むすりとしながら、宙に近付く。

「お、おはようございます、黒燁様」
「宙。まーた俺より先に起きて働いていたな。お前の本来の仕事は、それじゃないだろうが」
「だ、だって」

ぽぉと宙は頬を赤らめる。
家事は慣れているが、妻としての仕事は一向に慣れない。

(だって朝起きて、目覚めのキスをするだなんて……)

「お前ができないなら、俺からするぞ」
「え、ええ」

ぐいと肩を抱き寄せられ、キスされた。
身体中が、電気が流れたように熱くなる。

最強最悪という禍々しい呼び名が不釣り合いなくらい繊細で長い睫毛が瞬いて、紅玉のような美しい紅い瞳が、宙をじっと見つめた。

「相も変わらずお前の唇は甘露だな。何度しても、飽き足らぬ」

低く甘く囁かれて、宙は思わず洗濯籠を落としてしまった。

「わぁあ、せっかくのお洗濯物が」
「よかった! これで私の仕事が出来ました!」

狸の妖は、嬉々として洗濯物を持って去って行った。