天災が嘘だったように、街は暖かな季節を謳歌していた。
柔らかな風が吹く。
花を揺らし、甘い香りを漂わせる。
宙の家の庭はすっかり様変わりし、花々が咲き、清水が流れる美しさとなっていた。
宙は艶光りする縁側から下り、強くなり始めた日差しに目を細めた。
夏はもうすぐだ。
「宙ちゃ~ん!」
「宙様~」
そこへ、妖達がやってきた。
「あー! やっぱり洗濯してたー! もーぅ!」
白い着物にくりくりの銀髪が愛らしい猫娘が、宙が抱えていた洗濯籠を見て牙を出して叫んだ。
「宙ちゃんは働いちゃだめって言われているでしょ!」
「そうです宙様、お洗濯は私の仕事です」
と、狸の妖に目をうるうるされ、宙は苦笑する。
「え、あ、ごめんね、朝からお天気が良かったから、つい」
「あと、ご飯の準備も済ませたでしょ!」
「……早起きしちゃったから、つい」
「台所で飯炊き役の妖たちが仕事がないって困ってたよ」
「そうなの? それならこれからみんなで朝ご飯にしましょう? 黒燁様がもうすぐ起きてくるはず」
「もう起きているぞ、宙」
急に低い声が聞こえて、宙は飛び上がった。