「すべてを思い出したのか?」

黒燁に問われ、宙は弱々しくかぶりを振った。

黒燁のことは思い出せても、他のことがまったくと言っていいほど思い出せなかった。
一千年前、自分はどういう人間で、何が起きたのか……。
様々な記憶が、塗りつぶされたように真っ白だった。

「無理もない。お前の霊力と記憶は、白龍の力で封じられてきたのだからな」
「え?」
「今、解放しよう。指輪は持っているか?」

持っていた指輪を渡すと、黒燁は宙の手を取り、

「これは俺が造ったもの。正しい使い方は、こうだ」

と、宙の指に指輪をはめた。

その瞬間、何かが宙の中に流れ込んできて、バチッと武水から貰った腕飾りが弾け飛んだ。

「いいんだ。それはお前の力を抑えていた物だったんだ」

どくどくと溢れ出てくるような感覚があった。
すると、暴風で傷ついた辺りの木々から、芽が吹き出した。

「それがお前の力だ。傷ついたものを癒すほどに強く、清冽な霊力だ」
「そんな……」

にわかに信じがたく宙が目を白黒させていると、境内で気絶していた能力者や使役霊達が目を覚ましだした。