「認めない……。私は認めない。離れるんだ、宙」

怨嗟のように武水が低い声を漏らした。

鈍い痛みが脳裏に走り、同時に宙の頭に記憶が再び甦る。
武水が高笑い、そして自分は血を流し、悲しみと絶望の涙を流していた。

切り裂かれるような痛みに耐えきれず、宙はこれ以上の記憶の復活を拒んだ。

「嫌、もう嫌……。これ以上苦しめないで」
「何を言うんだ宙。私はずっと君を――」

宙は武水を睨んだ。

「もう、あなたの言いようにはならない。私の幸せは、私が決める」
「宙……!」
「そういうわけだ、白龍。今度はお前が消える番だ――!」

黒燁の瞳が光り、その瞬間、炎が生まれ武水を飲み込んだ。

武水はもがき、すぐに炎から抜け出したが、その姿は人間のものではなかった。

銀の鱗を光らせた、美しい白龍だった。

呪詛を残すように咆哮した白龍は、火傷を負った身体を翻して、天に飛び去って行った。

幼い頃から宙のそばにいた武水――。
優しい人間の姿は仮の姿で、本来の狡猾な龍の姿をした白龍は、宙をずっと監視していたというのだろうか……。

やりきれない思いを抱え、宙は天に昇って行く白龍の姿を見つめていた。