唇にぬくもりが灯り、涙が零れた。

再び目を閉じると、頬にはもう冷たい雨の感触しか残っていなかった。

いつしか、視界は荒れた境内に戻っていた。
だが、暴風雨は治まり、雲の合間からは日差しが差し込んでいた。

そして自分が鬼の腕の中にいることに気付いて、息を飲んだ。

「思い出してくれたか?」

微笑む鬼に宙はこくりと頷き、鬼の名を――愛しい恋人の名を、一千年ぶりに口にした。

「黒燁(こくよう)、様……」
「そうだ。それが俺の名だ」

鬼――黒燁は破顔し、力いっぱい宙を抱き締めた。