全速力で走って、どうにか時間五分前で校門に滑り込むことができた。

「ぎりぎりセーフ……」

汗をかいて大きく息をする宙に、訝しげな視線が集まっていた。
使役霊を使わないで全力疾走して登校するなんて、と嘲笑がまじった眼差しだった。

他の生徒達は、使役霊に乗って空を翔けたり、地上を走ってきたり、と汗ひとつかかず優雅に登校してくる。
使役霊を駆使した場所移動は基本中の基本。
それをしない人間は、よほどの物好きか、霊力を持てない哀れな『底辺』のどちらかだ。

宙は視線から逃げるように小走りに校舎玄関に向かった。

人類は、科学を発達させると同時に、非科学をも研究、鍛錬していった。

つまり『妖』への理解と、自らの霊力の精進である。

その結果、人類は『使役霊』を持つことができるようになった。

使役霊とは、霊力を持つようになった動物や物や古より存在する妖怪で、人間に従属するもののことを言う。
人間は、自らの霊力を使役霊のエネルギーとして提供することで、これらの力をセーブし操って日常生活に反映させていた。