「痛い……!」
「一千年待ったのは、私とて同じ。この期に及んで、二度も失ってたまるか」
「やめて……やめてっ、武水君!!」

叫ぶ宙から、圧が生じた。
あろうことか宙からの霊波の発動に、完全に油断していた武水は吹き飛ばされ、暴風で折れかけた松の木に当たった。

バキッ!!

その衝撃に、幹が完全に折れ、音をたてて倒れてくる。

宙へ向かって。

逃げても間に合わない――そう覚悟し、宙は目をつぶった。

しかし、痛みに襲われることはなかった。

うっすらと目を開けると、長身と艶やかな黒髪がそこにあった。

炎を発して一瞬で巨木を灰にすると、鬼はゆっくりと振り返った。

「だめだ、離れるんだ!」

武水が叫んだ。

けれども宙は、鬼の顔に見入ったまま、身動きができなかった。

そっと、手を握られる。
思わずびくりと震えると、鬼が穏やかに微笑んだ。

「せっかく助けてやったのに、そんな顔するなよ」

微笑に悲しげな色が差した。

「本当に……何も覚えていないんだな……」