境内では、力のある能力者達が使役霊を従えて鬼を囲んでいた。
伝説の鬼を前にしても逃げることのなかった勇気ある者達である。
その顔は、未知なる脅威を相手に、命を落とすことも辞さないという表情を浮かべていた。

ただ一人を除いて。

(お前! わたくしの声が聞こえているの!? 返事しなさい。これはいったどういうこと!?)

世璃瑠は先ほどからずっと鬼に念じ続けていた。
しかし、鬼からの返答は一切なかった。

使役霊となった妖は、主の命に従わないと、契約時にかけた呪術の作用によって肉体的なペナルティを科せられる。
世璃瑠の命を無視し続けている鬼にも、身体に苦痛が与えられているはずだが、その整った顔には涼しげな表情しか浮かんでいない。

世璃瑠は、怒りと動揺に震えた声で、もう一度鬼に念じた。

(今すぐこの天災を収めなさい。さもなければ)

突然、にぃと鬼が笑みを浮かべて言葉を発した。

「貴様、誰に向かって命じている?」