さすがの武水にも焦りの表情が滲んでいた。

「さぁ早く、家に帰るんだ」
「でも……、きゃっ」

武水の使役霊である鳥の妖が、宙を持ち上げた。

「待って武水君……!」
「着いたら、何があっても家から出てはいけない。わかったね」
「でも私、言わなければならないことが」
「わかったね!?」

強い口調で押し切られ、宙は頷くしかなかった。

武水は鬼を再び封印するつもりなのだろう。
こんな天災を易々と起こしてしまう鬼に、武水といえども太刀打ちできるのか……。

(全部、私のせいだ)

ごめんなさい――そう言葉が出掛かったが押し留めた。
今さら詫びても、どうにもならないのだ。

宙を抱いて、使役霊が羽搏いた。
武水が真剣な顔をして釘を刺す。

「何があっても家の中にいること。それと、これも絶対に外してはいけないよ」

と、武水は宙の腕飾りを指さした。

何故こんな時までただの腕飾りにこだわるのだろう。
お守りと言うことだろうか。

怪訝に思う宙を抱え、使役霊は暴風雨が吹き荒ぶ夜空へ飛び立った。

空から住み慣れた街を目の当たりにして、宙は絶句した。

酷い有様だった。
強風により、あちこちで電柱や木が折れ、大破した車が道路に放置され、所々、住宅で火事が起きている。
みんな泣いて逃げて怯えていた。