（武水君にまで嫌われてしまったら、私……）

「どうしたの？　顔色が悪いね？」
「え？」
「何かあった？」
「え、ううん……！」

武水に心配そうに顔を覗き込まれ、思わずかぶりを振ってしまった。

「緊張しているだけかな。大丈夫、僕がついているから」

そう笑うと、武水は神楽殿を出て行ってしまった。

「宙ちゃん……やっぱりあの鬼のことが気になるの？」
「雪ちゃん……。どうして私は、勇気が出せないのかな……」

ゴロゴロゴロ！

突然、空に轟音が鳴り響いた。

いつの間にか、灰色の雲が空一面を覆っていた。

悪天候なんて、おかしい。
そう思って縁側まで歩み寄った宙の頬に、冷たい水滴が落ちた。
大雨が降ってきた。

松明の火があっという間に消え、境内は僅かな照明だけが頼りなく灯るだけになった。

鬼鎮祭の開催日は、陰陽の知識がある者達が吉凶を占い、天候を予測して一番良い日に設定する。
それがこうも大きく外れるとは……。

突然、ビィイ！　と大きな音がした。
次の瞬間、照明が一斉に消え、境内は薄暗い不気味な雰囲気に支配された。
人々は慌てふためき、辺りは騒然となった。

「こんなの、ただの悪天候じゃないよ」

呆然としながら言う雪に、宙は顔を曇らせて小さく頷いた。

「これはきっと、妖の霊力によって引き起こされた災厄だよ……」