じっと見つめられて、宙はどきどきした。
漆のように深い黒色をした武水の瞳。
気のせいか、宙には時折、この瞳が違う色合い見せるように感じることがあった。
この一族は凄い霊力を持っているから、そのせいなのかもしれない。

僅かな照明とたくさんの松明が灯されて、境内はいつもとは違う厳かな様子だった。
神楽殿から見える本殿前では、今回の仕切役を務めた有力な使役霊使い達が座している。
緊張感に溢れた、重々しい雰囲気だ。
そして、その様子を何千人という見物客が見守っていた。

鬼鎮祭の始まりは、一千年ほど前に遡る。

この地域では、邪悪で霊力が強い鬼の総大将が、魑魅魍魎と暴れまわって人々を苦しめていた。
それを天からやってきた白龍が封印し、以来、この地域は鬼の災いを受けることなく平和になった。
人々は神社を造営して白龍を祀り、そして、百年に一度、封印した鬼が目覚めぬよう儀式を行うようになった。
それが鬼鎮祭だった。

(鬼……)

相変わらず、鬼が出たという騒ぎは起こっていない。
もしかしたら、諏訪家の人々が騒ぎになる前に鬼を封印してくれたのかもしれない。
そう思って忘れてしまおう、と思ったが、

(無責任だよね……)

もし、鬼が今は霊力を回復するのを待っているだけであって、どこに潜んでいるだけだったら……。

(今からでも遅くない。武水君にあの夜のことを言わなくちゃ)

でも、勇気が出なかった。