「そうよ、やはりわたくしは天に愛されているのだわ。この時のためにわたくしはあのものを使役したのよ。――いでよ、鬼よ」

何もない空間に微かに黒い靄が立ち込めたかと思うと、そこから浮き出るように人影が現れた。

細身ながらがっしりとした長身。
黒髪の中に鋭くそそり立つ、二つの角。
その下で鋭光を放つ、真っ赤な瞳……。

世璃瑠の霊力の分け与えられたためか、契約を交わした夜よりも精気が感じられ、オーラのような威圧感を放っている。

それでいて、青年と表せられる若さに溢れた容貌は美術品のように精美で、紅い瞳の神秘さと相まって神々しさすら感じさせた。

これが、鬼。

妖狐は格の違いに無意識に膝を折った。
さすがの世瑠璃も、背筋に緊張が走るのを覚えた――が、使役者はこの自分なのだ、と持ち前の高慢さを奮い立たせる。

すると、それを感じ取ったかのように、鬼はおもむろに膝を折り、世璃瑠に頭を下げた。

「我が主よ、何なりと命を」

この思惑が叶えば、宙はこの街に居られなくなるばかりか、武水からも愛想を尽かされるに違いない。

その惨めな様を想像しただけで、世璃瑠は愉悦を覚えずにはいられなかった。