「た、武水くん、私も巫女は世璃瑠さんの方が……!」
「巫女装束などはうちですでに用意してある。準備はさほどかからないよ。細かいことは明日で十分だ」

宙の言葉など聞こえていないかのよう、武水はにっこりと笑った。
優しげな柔らかさがあるのに、いつもこの笑顔には、どうにも押し返せないような威圧感があった。

こういうことは、過去に何度もあった。

宙は一度、訴えたことがあった。

私は武水君には相応しくない。だからもう親しくしないで、と。

その時も武水は、このふんわりとした、それでいて重い笑顔で言った。

君の家と僕の家は由緒ある家。相応しくないはずがない、と。

腕飾りもそうだった。

ある時、お前のような者がそんな高価な物を付けるべきではないと罵られ、次の日から外した時があった。

そうしたら、武水がものすごく真剣な顔で、絶対に外すなと言ったはずだろう? と宙に詰め寄ってきた。

だからそれ以来、肌身離さず付けているのだ。

『あいつの臭いが、ぷんぷんする』

不意に、この前、鬼が言った言葉を思い出した。

(何か、関係があるの……?)

「じゃあ、明日の夕方、迎えに寄こすからね」
「あ、う、うん……」

微笑を残して去って行く武水に、宙は笑顔で頷くしかなかった。
左手首が、心なしか重い気がした。