そのうち、武水は両親には内緒だと、宙にだけ美味しいものを分けてくれたり買ってくれたりした。
その中のひとつが、今宙の左手にある腕飾りだった。
翡翠の勾玉が中心に添えられた、美しい装飾。
宙の両親が、こんなものは貰えないと固辞しても、似合うからずっと付けていて欲しいと譲らなかった。

周囲からの刺さるような視線に耐えかねて、宙はおずおずと武水に言った。

「ねぇ武水くん。……あの、できたら、私に話しかける時は、どこか人目のつかない所でしてもらえると……」
「どうして?」
「どうしてって……」

綺麗な顔を不思議そうに傾げられて、言葉に詰まってしまう。

武水は宙が周りからどう思われているか知っているはずだった。
なのに、むしろそんなものは気にするなと跳ね除けるばかりに、こうして人目に付く場所で話しかけてくる。

「それより、お願いがあって来たんだ」
「え、なあに?」
「明日は鬼鎮祭だろう? 巫女の役を宙にやって欲しいんだ」
「え……!」

宙の驚きの声以上に、周りで湧き起こったざわめきの方が大きかった。