「いよいよ、巫女を指名しにいらしたんだわ」
「やっぱり、指名するのは世璃瑠様?」

クラスメートの期待が高まる。
世璃瑠も自然な様子を演じつつ、自慢の黒髪を整えて居住まいを正している。

しかし、多くの予想に反して、武水が真っ直ぐに向かったのは宙だった。

「久しぶりだね、宙」
「う……うん、久しぶり、武水くん……」

武水は整った顔を綻ばせて宙に話しかけた。
周りから痛いくらいの視線を感じ、蚊の鳴くような声で宙は返した。

「先日はごめんね。うちに来てくれたんだろう? 僕から指定しておいたのに、急用が入ってしまって会えなくなってしまった」
「ううん、いいの。忙しいもんね」

若くして当主を務めているのだ。
色々と忙しいに違いない。

今の宙には到底信じられないことだが、宙の家と武水の家はその昔――つまり、宙の祖先が罪を犯すまでは、力のある陰陽師家としてこの地域一帯に多大なる影響力を持っていた。
かの大陰陽師安倍晴明とも縁があったほどだったという。

だから両家のつながりも深く、婚姻を結んだこともあったらしい。