そもそも蔵の鍵を開けっ放しにしているのが悪い。
というのが雪の意見で、鬼の封印を解いてしまったことについても、霊力がない宙に何故そんなことができたのか納得がいかないので、そもそも弱っていた封印がタイミングよく破れてしまっただけではないか――つまり封印の管理を怠った諏訪家側の責任だ、と宙を擁護していた。

とは言っても、鬼の解放は事実だ。
それを黙っていてよいのか……。

罪悪感を抱えて、宙はここ数日安眠できなかった。
ただでさえ悪い顔色を曇らせて教室の隅で悩みあぐねていると、

「やだあいつ、よりいっそう陰気な顔してる」
「ああいやだ。せっかく百年に一度の鬼鎮祭で盛り上がっているというのに、水を差されてしまうわ」

小言が聞こえてくる。
居た堪れない思いになり席を外そうとすると、教室が急にざわつきだした。

「わぁ、武水様よ……!」
「何日ぶりの登校かしら?」

と、女子達の熱い視線を一気に集めたその人物は、鬼鎮祭の司祭者――白龍神社の現神主、諏訪武水(すわ たけみ)だった。

白皙の肌に柔らかい黒髪。
秀麗な顔立ちは常に柔和な微笑を浮かべていて、由緒ある神社の当主らしく、気品と高潔さに溢れていた。