鬼鎮祭では祭祀を進行する司祭者とその補助を担う巫女が必要とされていた。
補助と言っても巫女は重要な存在であり、特に祭祀の最中に行われる舞楽では、司祭者と共に舞う華やかな役割をも任されている。

この名誉ある巫女に選ばれた娘が、諏訪家の妻となった歴史もあったことから、巫女の選定は一番の目玉となっていた。

そんな浮かれている周囲をよそに、宙は気がそぞろだった。

鬼の封印を解いてしまったあの夜から、数日が経っていた。

今のところ、鬼が出没したという事件は噂にもなっておらず、鬼が引き起こすと言われている災厄も起きていない。
いたって平穏な毎日が続いていた。
まさか世璃瑠が鬼と契約を結んだなどと露とも思わない宙には、この沈黙が不気味だった。

(諏訪家に鬼を放ってしまった、と報告すべきなのだろうけど……)

黙って蔵に入ってしまったことをどう申し開きすればよいのか……援助を受けていることを考えると、勇気が出せずにいた。