妖狐は少し苛立ちを滲ませながら、世璃瑠を説得し続けた。

「鬼は我ら物の怪より上位の存在であることはご存じでしょう? あなたと私が全力を出したとしても、恐らく敵いません」
「そうかしら? なら何故これほどに霊力が弱いのかしら? 恐らく封印から解かれたばかりで、霊力が完全ではないのでしょう?」

挑むような口調で言うと、鬼はほう、と意味深に片眉を上げた。

「鬼は昔から嘘が上手くあざとい妖なのです。表面に騙されてはいけません」

必死の説得を無視して、世璃瑠は妖狐を押しやって鬼の前に出た。

「その昔、陰陽師の中には鬼を屈服させて使役した者がいたと聞いたわ。土位家は陰陽師を祖とする家系。鬼を使役してこそ、我が一族が一流である証になる。そしてわたくしは、一族きっての霊力を誇る身よ」

そう高らかに言うと、世璃瑠は鬼に向かって印を切り、霊力を高めた。
すると、鬼が苦悶の表情を見せ始めた。

まさか、と唖然としている妖狐を尻目に、世璃瑠は勝ち誇ったように言った。