そして、すぐに妖狐のその予感は当たる。

ふたりは蔵の奥に佇んでいる人影の正体に気付いて、身を強張らせた。

「ほぉ、今度はまともな霊気のやつが来たな」

妖狐は世璃瑠の前に立ち塞がった。

「今すぐここを出て行け、鬼。でなければ」
「狐か。まだ人間なんぞに従っているのか。情けないやつだ」

ふんと鼻笑うと、鬼は霊気を放った。
すかさず妖狐が霊気を放ち、その衝撃を相殺させる。

「危惧した通り、こやつは鬼です。しかも、かなり厄介な……。世璃瑠様、私が引き留めておくので、お逃げください」
「逃げる? 何を言っているの?」

現代において、鬼はほぼ伝説の存在と言えた。
その尋常ではない霊気を振るい古くより人間を恐怖と苦悶に陥れてきた鬼は、長い歴史を懸けて権威ある陰陽師や神によって封印または滅されてきたからである。

伝説ゆえに、現代の人間にはその脅威に鈍感でいるらしい。
世璃瑠は、鬼を前にしてもまったく動じた様子を見せなかった。