そっと目を開けた。
紅い瞳と目が合った。

ズクン。

訳もなく、心臓が跳ねた。

鬼は眩しいものでも見つめるかのように宙を見つめ、さらに迫ってきた。
まさにこの世の者とは思えない美貌が近付いてきて、目を逸らすことができないまま、宙は押し倒される。

頬を撫でていた指が、そっと移動して、唇に触れた。

それでも、恐ろしくはなかった。

伝承では、鬼は人間の精気を食らうと言う。
自分はその餌食になるのかもしれない、そう冷静に予測できているのに、焦りはなかった。

唇の感触を楽しむように撫でられ、そして、その割れ目に爪先を入れられ、半開きにされる――。

「さぁ、俺を満たしてくれ……」

食われる。

とは思わなかった。

(キス、される)

そう思った――瞬間。