男の瞳が開いた。
紅かった。
まるで血のように、炎のように。

宙の記憶と、目の前の人物が重なった。
身体が震えた。

そう、目の前の男は夢で何度も見た人物――

(鬼)

「ようやく、この時が来たな」

燃えるような瞳から鋭い眼光を放って宙を見据えると、鬼は口を開いた。
低く野性味のある声だった。

恐怖と混乱で腰が抜けたまま、宙は後退った。

逃がさない、とばかりに鬼が身を乗り出してきた。
覆いかぶさるように迫られ、宙は声にならない悲鳴を漏らし、目をつぶる。

「……どれほど、焦がれたことか……」

頬に感触を感じた。
鬼の指――と気付いて血の気が引いた。

けれども、その手つきはひどく優しかった。
まるで、大切なものに触れるかのように――。