翌日、萌は学校を休んで病院に行った。左手首は捻挫、しばらく安静にしていること、と言われてしまい、部活動に支障が出てしまいそうだ。頭の怪我の方は軽い打撲で、念のため検査をしたけれど特に問題なし。
半日以上病院に時間を取られてしまったけれど、捻挫だけで済んでホッとした。もっと大きな怪我だったら、きっと駿介は自分を責めてしまうだろうから。
そんなことを考えながらベッドでごろごろしていると、知らない番号からスマートフォンに電話がかかってくる。いたずら電話だろうか。電話が切れるのを見守るが、切れるとほぼ同時に再び同じ番号からの着信。
萌は少し悩んだ後、通話ボタンをタップした。
「…………もしもし?」
『雨宮? 矢吹だけど』
「矢吹くんかぁ。知らない番号からだったから出るの躊躇っちゃったよ」
『だろうなと思って連続でかけてやった』
それなら知り合いからだって分かると思って、と電話口で笑う声は、機械を通しているからか、いつもよりも低い気がする。
『怪我、どうだった?』
早速本題に入るあたり、きっと授業中もずっと気にしてくれていたのだろう。なんだか申し訳ない気持ちになって、萌は少しだけ声が小さくなってしまう。
「頭の怪我は問題なかったよ。左手首は捻挫だって」
でも若いからすぐ治るよ、ってお医者さんが言ってた、と笑ってみせると、電話の向こうでそっか、と低く呟く声。
「…………矢吹くんのせいじゃないからね?」
念押しするように言葉を紡ぐと、駿介が息を飲むのが分かった。きっとまさにそのことを考えていたに違いない。
昨日の放課後も、萌の母に「俺のせいで怪我をさせてしまいました、すみません」と頭を下げていたくらいだ。かなり自分を責めているのだろう。
でも、駿介だって被害者で。そもそも萌が怪我をしたのは、勝手に萌が飛び出したからだ。本当に彼は何も悪くない、少なくとも萌はそう思っている。
暗くなってしまった雰囲気を変えようと、萌は出来るだけ明るい声で違う話題を持ち出した。
「それより矢吹くん!」
『ん?』
「結果ってもう出たの? レギュラーの!」
『あー、出たらしいな。やまえもんに勿体無い勿体無いって散々嫌味言われたわ』
「…………? どういうこと?」
電話であることを忘れて萌は首を傾げる。
どこか他人事のような口調も違和感があるし、何より勿体無いというのはどういう意味だろう。
萌の質問に、駿介は予想のはるか斜め上の回答をしてみせた。
『いや、バスケ部辞めて吹奏楽部に入ったんだよ。雨宮と同じトランペット。よろしくな』
「………………えっ、ええええええ!? な、なんで!? なにそれ!?」
言ったじゃん、決めたって。と言われた言葉に、保健室の前で駿介が呟いたことを思い出す。「うん、そうだな。決めた」と、確かそんな一言だった。なにを? と萌が訊く前に話は終わってしまったけれど、まさか吹奏楽部に入るということだったのだろうか。
「えっ、だってせっかくバスケ……えええ、勝ったのに!?」
『勝つのは絶対条件。セコい手を使ってきた切島先輩に、バスケで正々堂々勝ってギャフンと言わせて。そしたらレギュラーになれてもなれなくても、バスケ部は辞めて雨宮と同じ部活に入るって決めたから』
なにそれ……と言葉を失った萌に、駿介はからりと笑う。そして、まあ見てろって、と言った。
『いつか雨宮が、矢吹くんと一緒にトランペットが出来てよかったって言うくらい、上手くなってみせるからさ』
頑固なところも、ちょっぴり自信家なところも、どうしてか憎めない。萌は「矢吹くんは私のことを変わっているって言ったけど、矢吹くんも十分変だよ」と笑って、一緒に頑張ろうね、と新たに出来た友達、もといチームメイトに声をかけるのだった。
半日以上病院に時間を取られてしまったけれど、捻挫だけで済んでホッとした。もっと大きな怪我だったら、きっと駿介は自分を責めてしまうだろうから。
そんなことを考えながらベッドでごろごろしていると、知らない番号からスマートフォンに電話がかかってくる。いたずら電話だろうか。電話が切れるのを見守るが、切れるとほぼ同時に再び同じ番号からの着信。
萌は少し悩んだ後、通話ボタンをタップした。
「…………もしもし?」
『雨宮? 矢吹だけど』
「矢吹くんかぁ。知らない番号からだったから出るの躊躇っちゃったよ」
『だろうなと思って連続でかけてやった』
それなら知り合いからだって分かると思って、と電話口で笑う声は、機械を通しているからか、いつもよりも低い気がする。
『怪我、どうだった?』
早速本題に入るあたり、きっと授業中もずっと気にしてくれていたのだろう。なんだか申し訳ない気持ちになって、萌は少しだけ声が小さくなってしまう。
「頭の怪我は問題なかったよ。左手首は捻挫だって」
でも若いからすぐ治るよ、ってお医者さんが言ってた、と笑ってみせると、電話の向こうでそっか、と低く呟く声。
「…………矢吹くんのせいじゃないからね?」
念押しするように言葉を紡ぐと、駿介が息を飲むのが分かった。きっとまさにそのことを考えていたに違いない。
昨日の放課後も、萌の母に「俺のせいで怪我をさせてしまいました、すみません」と頭を下げていたくらいだ。かなり自分を責めているのだろう。
でも、駿介だって被害者で。そもそも萌が怪我をしたのは、勝手に萌が飛び出したからだ。本当に彼は何も悪くない、少なくとも萌はそう思っている。
暗くなってしまった雰囲気を変えようと、萌は出来るだけ明るい声で違う話題を持ち出した。
「それより矢吹くん!」
『ん?』
「結果ってもう出たの? レギュラーの!」
『あー、出たらしいな。やまえもんに勿体無い勿体無いって散々嫌味言われたわ』
「…………? どういうこと?」
電話であることを忘れて萌は首を傾げる。
どこか他人事のような口調も違和感があるし、何より勿体無いというのはどういう意味だろう。
萌の質問に、駿介は予想のはるか斜め上の回答をしてみせた。
『いや、バスケ部辞めて吹奏楽部に入ったんだよ。雨宮と同じトランペット。よろしくな』
「………………えっ、ええええええ!? な、なんで!? なにそれ!?」
言ったじゃん、決めたって。と言われた言葉に、保健室の前で駿介が呟いたことを思い出す。「うん、そうだな。決めた」と、確かそんな一言だった。なにを? と萌が訊く前に話は終わってしまったけれど、まさか吹奏楽部に入るということだったのだろうか。
「えっ、だってせっかくバスケ……えええ、勝ったのに!?」
『勝つのは絶対条件。セコい手を使ってきた切島先輩に、バスケで正々堂々勝ってギャフンと言わせて。そしたらレギュラーになれてもなれなくても、バスケ部は辞めて雨宮と同じ部活に入るって決めたから』
なにそれ……と言葉を失った萌に、駿介はからりと笑う。そして、まあ見てろって、と言った。
『いつか雨宮が、矢吹くんと一緒にトランペットが出来てよかったって言うくらい、上手くなってみせるからさ』
頑固なところも、ちょっぴり自信家なところも、どうしてか憎めない。萌は「矢吹くんは私のことを変わっているって言ったけど、矢吹くんも十分変だよ」と笑って、一緒に頑張ろうね、と新たに出来た友達、もといチームメイトに声をかけるのだった。