委員会が決まって初めて迎えた木曜日。給食の準備が終わり次第すぐに放送室へ向かう。まだ初日で、曲のリクエストがあるか分からないので、家から適当に音源も持ってきた。
放送室のドアを開けると、そこには先に到着したらしい駿介がいた。給食を食べ始めているが、放送はまだ始めていない。
「あれ? 放送まだ流してないよね? やり方分からなかった?」
「いや、やり方はなんとなく分かるけど、原稿読み上げるのが恥ずかしいから雨宮さんにお願いしようと思って」
悪びれもせずにそう言う駿介に、萌は思わず苦笑した。お昼の放送はとにかく時間に追われているので、放送の電源をオンにして、マイクの音量を上げる。
「みなさんこんにちは。お昼の放送の時間です。今日の放送は一年二組雨宮と、一年三組矢吹が担当します。よろしくお願いします」
早口にならないように丁寧に読み上げて、マイクの音量を下げる。駿介が隣でパチパチと拍手をするものだから、萌は思わずため息を吐いた。
「原稿読みたくないなら私が全部読むけど、その代わり矢吹くんは音楽流す係ね」
「えっいいの? 絶対怒られると思ったのに」
怒られると思うなら言うなよ、と心の中で毒づいて、萌は眉を下げる。
「なんでもいいから曲流して。音量はうるさくなりすぎないように気をつけてね」
「はいはい」
駿介が選んだのは、放送室に無造作に置いてあるクラシックのCDだった。他にも有名な邦楽や洋楽がたくさん置いてあったのに、意外性のあるチョイスだ。
駿介の隣のパイプ椅子に腰を下ろし、萌も給食を食べ始める。隣の駿介の皿を見ると、すでに半分ほど食べ終えていた。どうやら食べるのが速いらしい。
「雨宮さんってもしかして放送委員に立候補した?」
「えっ? うん。なんで?」
「慣れてる感じだったから、今までもやったことあるのかと思って」
小学校のときも委員会はずっと放送委員だったことを話すと、駿介は驚いたように目を丸くした。
「へぇー、すごいな。だから読むの上手いんだ」
その言葉に少しだけ嬉しくなる。コンソメスープを一口飲んで、萌がありがとうと笑うと、駿介は意外な言葉を口にした。
「アナウンサーとか向いてそうじゃない?」
「えっ」
「あ、もしかしてもう他に夢がある?」
「ううん、そうじゃなくて」
ずっと昔から、夢だった。父親と一緒に見る野球中継。同じ会場で選手の活躍を見て、プレーを実況するアナウンサー。かっこいいと思った。自分もやってみたいと、ずっと思っていたのだ。
「…………笑うかもしれないけど」
「ん?」
「アナウンサーになるのが夢なの」
親にも幼馴染にも教えたことのない秘密。どうしてまだ会ったばかりの駿介に、こんな話をしているのだろう。言いふらされるかもしれないし、無茶だと笑われるかもしれないのに。
でも駿介は笑わなかった。真面目な顔でふぅん、と呟くと、かっこいいじゃんと言葉を続けた。
「アナウンサーってニュース読んだり、バラエティ番組の司会したり?」
「うん。でも一番やりたいのはスポーツの実況なの。だから今いろんなスポーツのルールを勉強してるんだ」
野球はやったことがあるから分かるけれど、他のスポーツには触れてこなかったので、さっぱりルールが分からない。図書館でルールブックを借りて、ノートにまとめ、覚えている最中だ。
「バスケは?」
「この間、簡単に分かるバスケットボールって本を借りて読んだんだけど、結構ルールが複雑だよね」
「一度試合を見にきたら? 見たら分かることもあるかもしれないし」
駿介が食べかけのパンを頬張りながら口にした言葉に、萌は首を傾げる。
矢吹くんってバスケ部なの、と訊ねると、途端に楽しそうな表情を浮かべ、身を乗り出す。
「そう、バスケ部! まだ入ったばっかりだけどさ、ミニバスからやってたから結構上手いんだぜ」
詳しく話を聞くと、どうやらバスケットボール部は完全な実力主義らしく、一年生でレギュラーを取ることもあり得るのだと言う。
部内でチームを組んで試合を行い、その成績によって夏の大会のレギュラーが決まるようだ。
「三年生に遠慮したりしない。俺は一年だけど、絶対レギュラーを取る」
強い決意を秘めた目に、どうしてか幼馴染の顔を思い出した。ピッチャーでナンバーワンになると言った彼は、頑張っているのだろうか。
そんなことを頭の隅でぼんやり考えながら、頑張ってね、と駿介に笑いかけると、爽やかな笑顔が返ってきた。
放送室のドアを開けると、そこには先に到着したらしい駿介がいた。給食を食べ始めているが、放送はまだ始めていない。
「あれ? 放送まだ流してないよね? やり方分からなかった?」
「いや、やり方はなんとなく分かるけど、原稿読み上げるのが恥ずかしいから雨宮さんにお願いしようと思って」
悪びれもせずにそう言う駿介に、萌は思わず苦笑した。お昼の放送はとにかく時間に追われているので、放送の電源をオンにして、マイクの音量を上げる。
「みなさんこんにちは。お昼の放送の時間です。今日の放送は一年二組雨宮と、一年三組矢吹が担当します。よろしくお願いします」
早口にならないように丁寧に読み上げて、マイクの音量を下げる。駿介が隣でパチパチと拍手をするものだから、萌は思わずため息を吐いた。
「原稿読みたくないなら私が全部読むけど、その代わり矢吹くんは音楽流す係ね」
「えっいいの? 絶対怒られると思ったのに」
怒られると思うなら言うなよ、と心の中で毒づいて、萌は眉を下げる。
「なんでもいいから曲流して。音量はうるさくなりすぎないように気をつけてね」
「はいはい」
駿介が選んだのは、放送室に無造作に置いてあるクラシックのCDだった。他にも有名な邦楽や洋楽がたくさん置いてあったのに、意外性のあるチョイスだ。
駿介の隣のパイプ椅子に腰を下ろし、萌も給食を食べ始める。隣の駿介の皿を見ると、すでに半分ほど食べ終えていた。どうやら食べるのが速いらしい。
「雨宮さんってもしかして放送委員に立候補した?」
「えっ? うん。なんで?」
「慣れてる感じだったから、今までもやったことあるのかと思って」
小学校のときも委員会はずっと放送委員だったことを話すと、駿介は驚いたように目を丸くした。
「へぇー、すごいな。だから読むの上手いんだ」
その言葉に少しだけ嬉しくなる。コンソメスープを一口飲んで、萌がありがとうと笑うと、駿介は意外な言葉を口にした。
「アナウンサーとか向いてそうじゃない?」
「えっ」
「あ、もしかしてもう他に夢がある?」
「ううん、そうじゃなくて」
ずっと昔から、夢だった。父親と一緒に見る野球中継。同じ会場で選手の活躍を見て、プレーを実況するアナウンサー。かっこいいと思った。自分もやってみたいと、ずっと思っていたのだ。
「…………笑うかもしれないけど」
「ん?」
「アナウンサーになるのが夢なの」
親にも幼馴染にも教えたことのない秘密。どうしてまだ会ったばかりの駿介に、こんな話をしているのだろう。言いふらされるかもしれないし、無茶だと笑われるかもしれないのに。
でも駿介は笑わなかった。真面目な顔でふぅん、と呟くと、かっこいいじゃんと言葉を続けた。
「アナウンサーってニュース読んだり、バラエティ番組の司会したり?」
「うん。でも一番やりたいのはスポーツの実況なの。だから今いろんなスポーツのルールを勉強してるんだ」
野球はやったことがあるから分かるけれど、他のスポーツには触れてこなかったので、さっぱりルールが分からない。図書館でルールブックを借りて、ノートにまとめ、覚えている最中だ。
「バスケは?」
「この間、簡単に分かるバスケットボールって本を借りて読んだんだけど、結構ルールが複雑だよね」
「一度試合を見にきたら? 見たら分かることもあるかもしれないし」
駿介が食べかけのパンを頬張りながら口にした言葉に、萌は首を傾げる。
矢吹くんってバスケ部なの、と訊ねると、途端に楽しそうな表情を浮かべ、身を乗り出す。
「そう、バスケ部! まだ入ったばっかりだけどさ、ミニバスからやってたから結構上手いんだぜ」
詳しく話を聞くと、どうやらバスケットボール部は完全な実力主義らしく、一年生でレギュラーを取ることもあり得るのだと言う。
部内でチームを組んで試合を行い、その成績によって夏の大会のレギュラーが決まるようだ。
「三年生に遠慮したりしない。俺は一年だけど、絶対レギュラーを取る」
強い決意を秘めた目に、どうしてか幼馴染の顔を思い出した。ピッチャーでナンバーワンになると言った彼は、頑張っているのだろうか。
そんなことを頭の隅でぼんやり考えながら、頑張ってね、と駿介に笑いかけると、爽やかな笑顔が返ってきた。