*********



「『日本書紀』に書かれている西暦672年に起きた壬申の乱を境に、『天照大御神』という存在は専制君主を作り出すために確立されました。
ようは権力者、この国におけるトップは一人だけで良い。
そんなシステムを天武天皇は目指すために天照大御神を使ったのです。

天照大御神は全国を一律に見ることの出来る神だと思われていました。
これを使い天武天皇は全国を支配しようと考えたのです。
その時から天皇は皇女に天照大御神を祀らせました。
その為に伊勢へ皇女を送り、実質的にこれが斎王の始まりとされています。

その後実は空白の時間が出来、持統天皇の孫、文武天皇の時代に再度斎王が置かれました。
『続日本紀(しょくにほんぎ)』という平安時代初期の勅撰史書に「当耆皇女(たきのひめみこ)を遣わして伊勢斎宮に侍らしむ」とあります。
当耆皇女は天武天皇の皇女であり、この記事は公的な歴史書で初めて伊勢斎宮が書かれたものだとされているのです」


ホワイトボードに宏弥は系図と書物の名を書く。
その字は判読不可能なほど独特の文字だが、さすがに学生達も解読に慣れてきた。

今は二年次の講義でもちろん彩也乃も出席していた。

講義が終わって、西園寺は友人達と話しつつ教卓にいる宏弥に視線を向ける。
だが宏弥は一切気付いていないのか、特に学生が質問に来ていないのを確認してぼさぼさの前髪と眼鏡で顔を隠しているいつもの格好で教室を出て行った。

『それにしても一切私に興味が無いというのはどうなのかしら。
少しは情報を聞き出そうという雰囲気は微塵も無し。
しかし、あのベールに隠された顔、何とかして見たいわね』

自然と微笑んでいた彩也乃に、友人がどうしたのと声をかける。

「いえ、秘密というのは暴きたくなるものなのだと自分自身でも実感していました」

にこりと綺麗な顔で微笑む彩也乃に、友人達は訳がわからず顔を見合わせた。