鴇田との接触が始まったのは二年に進級してからだった。クラスには拓実がいた。舞島とは別のクラスになったけれど、稲臣と紙原の二人とは同じクラスになった。

文理で選んだのは舞島も同じ方だったけれど、クラスまでは同じにはならなかった。隣のクラスにいる。

 鴇田は進級してすぐに拓実と親しくなったようだった。それについて俺がなにかを思うのも感じるのも、ましてや口を出すなんていうのも間違っている。

それをわかっていなかったとしても、俺は鴇田に対して悪意を抱くことはなかったと思う。拓実は楽しそうだったし、彼女をトキという愛称で呼ぶ声も時折聞こえてきた。

俺はただ、拓実が誰かと親しくしたり楽しそうにしているのが嬉しかった。もう二度と、悲しい顔は見たくない。どうか、もう頑張らないで、のんびりと過ごしてほしい。

秘めやかで必死な願いはそれだけだった。どうか、拓実が苦しむことのありませんように。拓実が、幸せに執心することのありませんように。それを求めていないことが、幸せの条件だと思うから。

 初めに筆箱からシャープペンシルがなくなった。父が入学祝いにとくれたものとは別の、どこにでもある青色の安い一本だった。教室移動の教科で使ったからその教室に落としてきたかなどと考えて、次の休み時間にその教室は探しに行ってみた。

しかし、どれほどしつこく探してもその青いシャープペンシルは見つからなかった。特別なものではないけれど、中学生の頃から使っていたものだからなんとなく愛着のようなものがあった。

 さてどこへいってしまったかとしばらく考えていたけれど、翌日、稲臣と紙原と一緒に食堂から戻り五限目の準備をしようと筆箱を開いたとき、その青い一本が目に入った。何事もなかったかのようにそこにいた。取り出して見てみれば、細かい傷の入り方など確かに自分のものと思えた。

誰かが拾ってくれたのか、とも思ったけれど、わざわざここまで入れてくれるとはずいぶんとご丁寧なものだと薄気味悪くも感じたので、なくなったこと自体気のせいということにした。

もっとも、筆箱に入っている筆記用具はこれのほかシャープペンシルと蛍光ペン、赤のインクを入れたボールペンが一本ずつしかないのだけれど。

それでも、細身の筆箱の中だ、ほかに三本もの筆記用具が入っていれば隠れてしまうこともあっただろう。そのほかに姉の作ってくれたキングの駒を模したシャープペンシルの芯のケースも入っているのだから。