拓実と離れてからの日々は我ながら嘆かわしいものだった。今までの自分に逆戻りした。人と関わることに臆病で、明るいところよりもずっと暗いところが好きで、学校よりもずっと家が好き。

人のいないところに安心を見出し、孤独という心地よい無感情を好む。障子の先、縁廊下の向こうから鳥の声が聞こえれば、障子を開けてみる。廊下に出てみて、耳を澄ませてみる。

 いや、正確には前の自分に戻ることもできていないかもしれない。拓実に会う前の俺の方が、もう少しだけ強かったように思う。一人でいることに、寂しいと感じたことがなかったのだから。

誰かに会いたいなどと思ったこともなかった。静かな家には親がいて、両者一切の手加減なく遊戯をして、夜には真っ暗な中、両親と三人で川の字に布団を敷いて眠る。それで満足だった。ほかに欲しいものなどなにもなかった。

 それが今はどうだろう。拓実に会いたい。人と関わることに臆病で、誰かと一緒にいるよりは一人でいる方が好きなのに、一人きりでいればいるほど、拓実を求める。会いたくて仕方ない。話がしたい。無邪気な笑顔が見たい。彼女の天使のようなやわらかさ、清らかさで、胸の奥を満たしたい。

 心に穴が空いたような、というのは、こういう気持ちなのかもしれないと初めて想像できた。その空洞からいろいろなものが流れ出て、寂しさと孤独感だけが残る。それは大好きな人を求める。楽しかった日々に想いを馳せる。そんなふうに、意味のないことばかり繰り返す。

 拓実、拓実と誰にも聞こえない声で呼ぶ。時折聞こえてくる、敬人と応えてくれる彼女の幻が悲しい。

 少し疲れたのといった拓実は、俺をどれだけ求めてくれていたのだろう。俺に、どれだけの可能性を感じてくれていたのだろう。俺は、拓実のどんな心を踏み躙ったのだろう。

 俺は拓実に捨てられたのではない。拓実を見捨てたのだ。わかっているくせに、一丁前に寂しさを感じている。それに気がつくたび、暴力的で空っぽな衝動に駆られる。

愚かで無力な自分を苦痛の中へ葬りたくなる。限界まで痛めつけて、壊したくなる。堪え難いほどの衝動は、そうしたところでなにが残るのかという気づきで無力感に変わる。

そうしたところで拓実を救えるわけではない。拓実のそばにいられるようになるわけでもない。なにも変わりやしない。俺が一人で痛みに苦しむ自分を嘲笑うだけだ。誰も幸せにならない。俺の自己満足はなにも生まない。