一定の回数読めば解き明かせる暗号でも書いてあるように、私は教科書を読み漁った。参考書も問題集もたくさん買ってもらった。

突然の変化球に翻弄されないようにと中学校の予習もしようと思ったけれど、背伸びはするものではないように思えた。

まずは手に入れた学力を徹底的に試し、磨き込むべきだと思った。予習は書店での立ち読みに留めた。なんとなく見たことがあるという、慢心のない純粋な安心感は冷静さという心強い武器になると思った。

 机がしっかりしていれば、なにが載ってきても壊れることはない。小学校という机を必死に補強した。必死で脆い部分を探した。強度に偏りがあってはいけない。

どこか一点が強ければ、そのほかのところが脆いということになる。すべての箇所が丈夫でないといけない。少しの差もなく、同じように丈夫でないといけない。

 学校では、敬人がいろんな人と接しているのが見えるようになった。みんなが哀れに思えた。敬人とそんなふうに親しくしていられるのも今のうちだと。

敬人は最後には、きっと私のところへ帰ってくるのだ。今どれだけ親しくても、それは永遠には続かない。

 ああ、なんて残酷なのだろう。私は、とても残酷な計画を企てている。尊藤敬人という美しく愛くるしい、どこまでも魅力的な優しい人を、独り占めにしようとしているのだ。

彼に会った人はさぞ幸せになれるだろうに、私は世界中の人からその幸福を享受する機会を奪うのだ。

本来、世界中に散らばっている幸福の可能性を、一箇所に閉じ込め、自分だけのものにするのだ。

 ああ、なんて罪深い。世界から、目に見えない、けれども最も大切な、生きる希望になりうる可能性を奪うのだ。

私と比べてしまえば、金銭を騙し取る詐欺師は大した悪党ではないようにさえ思える。——いや、同じか。

私は世界から生きる希望を、詐欺師は生きる手段を奪う。奪うものこそ違えど、その二つはおよそ同価だろう。

 ああ敬人、早く近づきたい。なんて偉大な存在。私の世界のすべて。敬人が当然に隣にいてくれる日々なんて、どれほど幸せだろう。