「会長に、副会長……」
福山会長と三原副会長は、珍しい生物に向けるような目で俺たちを見ている。
特に俺に向ける視線は、訝しげだ。
だがその佇まいは、二人の絡めた手からも分かる通り、どこか幸せそうに見える。
「羽島くん。もうとっくに引退してるんだからその呼び方は止めてよ」
「会長、か……。思えば、人の上に立ったのはアレが最初で最後だったな」
三原副会長は困ったような笑みで応える。
その母親のような安定感は、昔のままだ。
福山会長についても、彼独特のどこか卑屈な雰囲気は健在のようだ。
「た、確かにそっすね。えっと……、二人はどうしてここに?」
「どうしてって、お前の結婚式だろうが! ったく、どいつもこいつも俺の先を行きやがって……」
「まぁまぁ。私たちももうすぐなんだし、大して変わらないよ。それよりいいの? 新郎がこんなところに居て」
どうやら二人も徳山たちと同じらしい。
しかし参った。
この状況をどう説明つければいいんだ?
立場上、俺はあからさまに分かったような態度は取れない。
俺は苦肉の策として、話を本筋から逸らすことにした。
「あっ! それより、お二人はいつから、その、なんですか?」
俺は二人の繋がれた手を指差し、質問する。
実際、気にはなっていた。
他のメンツも恐らくそうだろう。
二人は俺の質問に顔を見合わせた後、慌てて繋がれた手を離す。
何と言うか……。
この歳でなおもココまでピュアなのは、逆に貴重かもしれない。
余計なお世話だが。
「えっとね……。1年前から」
「まぁ……、そんな感じだな」
それから、三原さんを主体に二人の馴れ初めを話し始めた。
合宿での一件があった後、何とか内定まで漕ぎつけた福山さんだったが、入社後しばらくして、不幸にも会社が倒産してしまう。
必然的に、再び就職活動せざるを得なくなる。
そうして漂流するように、福山さんはとある会社に辿り着く。
決してタイトとは言えない現在の転職市場で何とか内定を獲得し、心底ホッとした福山さんだったが、コトはそう単純ではなかった。
というのも、何の運命のイタズラか。
そこは三原さんを一社目の会社からヘッドハンティングした会社だった。
そして福山さんは、皮肉にも課長である三原さんの下に配属される。
これが二人の再会だった。
「なるほど。何か……、らしいっすね」
「おい、羽島! ナニ笑ってやがんだ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって、チクショウ!」
そう言うと、福山さんは大げさに泣くようなジェスチャーを見せる。
「でも……、それがきっかけなんすか? こう言っちゃなんですけど、福山さんと三原さんって正直そこまで接点なかったような……」
「そんなことないよ。それに私、彼のこと大学時代からイイなって思ってたもの」
「えぇっっっ!!??」
「羽島! 驚き過ぎだ!」
「参考までに聞きますが、どんなところを……、ですか?」
「えっと……、優しいところ」
そう言いながら、三原さんは顔を赤らめながら俯く。
今まで見たことがない三原副会長の姿がそこにあった。
「羽島くん、これ以上はヤボだよ」
尾道は俺を諭すように言う。
二人には悪いが、驚愕したというのが率直な感想だ。
福山さんに関しては、俺や安城とほぼほぼ同類と言っていい。
今まで浮いた話など聞いたことはなかったし、何なら安城と同じく二次元から配偶者を調達するとすら思っていた。
とは言え、三原さんの言う通り、優しいと言えば優しいし、人望についても疑う余地はない。
在学中も福山さんの悪口は聞いたことはなかったし、俺自身も彼を慕っていた部分はあったと思う。
それに流れとは言え、あのクセの強い女を受け入れたぐらいだ
まぁ言うなれば、三原さんが実務家タイプなら、福山さんは調整役といったところか。
「そうだぞ、羽島。相変わらず、ナメ腐ってるな。でも、そんな羽島も結婚だもんな……」
遠い目で、福山さんは言う。
何ら疑わず話す分、今後のことを思うと心が痛む。
「……ソレはコッチのセリフですよ。それで……、お二人は《《いつ頃》》なんですか?」
俺が問いかけると、二人は意味深に見つめ合い口籠る。
「籍を入れるのは来月だよ。一応ね……」
三原さんはそう言いながら、苦笑を浮かべる。
「えっと……、じゃあ式は?」
「うん、挙げないつもり!」
三原さんは、どこか吹っ切れたような笑みで応えた。
その笑みが意味するものを、知るところではない。
だが、それが彼女たちの本意でないことは容易に理解できる。
「そうですか……。でも、おめでとうございます! 福山さんが非モテ卒業していたのは正直驚きでした」
「おいっ! お前さっきから好き勝手言い過ぎだぞ! もう俺たちのことは良いだろ。今日は羽島たちが主役なんだから。……で、奥さんは?」
「いや、それなんですが……」
「キャーーーーーーーッッッ!!!!」
突如、女性のものと思しき甲高い叫び声が聞こえた。
福山会長と三原副会長は、珍しい生物に向けるような目で俺たちを見ている。
特に俺に向ける視線は、訝しげだ。
だがその佇まいは、二人の絡めた手からも分かる通り、どこか幸せそうに見える。
「羽島くん。もうとっくに引退してるんだからその呼び方は止めてよ」
「会長、か……。思えば、人の上に立ったのはアレが最初で最後だったな」
三原副会長は困ったような笑みで応える。
その母親のような安定感は、昔のままだ。
福山会長についても、彼独特のどこか卑屈な雰囲気は健在のようだ。
「た、確かにそっすね。えっと……、二人はどうしてここに?」
「どうしてって、お前の結婚式だろうが! ったく、どいつもこいつも俺の先を行きやがって……」
「まぁまぁ。私たちももうすぐなんだし、大して変わらないよ。それよりいいの? 新郎がこんなところに居て」
どうやら二人も徳山たちと同じらしい。
しかし参った。
この状況をどう説明つければいいんだ?
立場上、俺はあからさまに分かったような態度は取れない。
俺は苦肉の策として、話を本筋から逸らすことにした。
「あっ! それより、お二人はいつから、その、なんですか?」
俺は二人の繋がれた手を指差し、質問する。
実際、気にはなっていた。
他のメンツも恐らくそうだろう。
二人は俺の質問に顔を見合わせた後、慌てて繋がれた手を離す。
何と言うか……。
この歳でなおもココまでピュアなのは、逆に貴重かもしれない。
余計なお世話だが。
「えっとね……。1年前から」
「まぁ……、そんな感じだな」
それから、三原さんを主体に二人の馴れ初めを話し始めた。
合宿での一件があった後、何とか内定まで漕ぎつけた福山さんだったが、入社後しばらくして、不幸にも会社が倒産してしまう。
必然的に、再び就職活動せざるを得なくなる。
そうして漂流するように、福山さんはとある会社に辿り着く。
決してタイトとは言えない現在の転職市場で何とか内定を獲得し、心底ホッとした福山さんだったが、コトはそう単純ではなかった。
というのも、何の運命のイタズラか。
そこは三原さんを一社目の会社からヘッドハンティングした会社だった。
そして福山さんは、皮肉にも課長である三原さんの下に配属される。
これが二人の再会だった。
「なるほど。何か……、らしいっすね」
「おい、羽島! ナニ笑ってやがんだ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって、チクショウ!」
そう言うと、福山さんは大げさに泣くようなジェスチャーを見せる。
「でも……、それがきっかけなんすか? こう言っちゃなんですけど、福山さんと三原さんって正直そこまで接点なかったような……」
「そんなことないよ。それに私、彼のこと大学時代からイイなって思ってたもの」
「えぇっっっ!!??」
「羽島! 驚き過ぎだ!」
「参考までに聞きますが、どんなところを……、ですか?」
「えっと……、優しいところ」
そう言いながら、三原さんは顔を赤らめながら俯く。
今まで見たことがない三原副会長の姿がそこにあった。
「羽島くん、これ以上はヤボだよ」
尾道は俺を諭すように言う。
二人には悪いが、驚愕したというのが率直な感想だ。
福山さんに関しては、俺や安城とほぼほぼ同類と言っていい。
今まで浮いた話など聞いたことはなかったし、何なら安城と同じく二次元から配偶者を調達するとすら思っていた。
とは言え、三原さんの言う通り、優しいと言えば優しいし、人望についても疑う余地はない。
在学中も福山さんの悪口は聞いたことはなかったし、俺自身も彼を慕っていた部分はあったと思う。
それに流れとは言え、あのクセの強い女を受け入れたぐらいだ
まぁ言うなれば、三原さんが実務家タイプなら、福山さんは調整役といったところか。
「そうだぞ、羽島。相変わらず、ナメ腐ってるな。でも、そんな羽島も結婚だもんな……」
遠い目で、福山さんは言う。
何ら疑わず話す分、今後のことを思うと心が痛む。
「……ソレはコッチのセリフですよ。それで……、お二人は《《いつ頃》》なんですか?」
俺が問いかけると、二人は意味深に見つめ合い口籠る。
「籍を入れるのは来月だよ。一応ね……」
三原さんはそう言いながら、苦笑を浮かべる。
「えっと……、じゃあ式は?」
「うん、挙げないつもり!」
三原さんは、どこか吹っ切れたような笑みで応えた。
その笑みが意味するものを、知るところではない。
だが、それが彼女たちの本意でないことは容易に理解できる。
「そうですか……。でも、おめでとうございます! 福山さんが非モテ卒業していたのは正直驚きでした」
「おいっ! お前さっきから好き勝手言い過ぎだぞ! もう俺たちのことは良いだろ。今日は羽島たちが主役なんだから。……で、奥さんは?」
「いや、それなんですが……」
「キャーーーーーーーッッッ!!!!」
突如、女性のものと思しき甲高い叫び声が聞こえた。