「つーかさ。素朴な疑問なんだけど、何で映研なの?」
「え? 消去法!」

 よく分からないまま、よく分からない流れで彼女を迎え入れたが、流石にこのまま全てを受け入れ、引き続き青春を謳歌出来るほど人間は出来ていない。
 既に4月も終わりを告げようとしている。
 オリエンテーション期間も終わり、学部やサークル内での所謂()()()()()()()も固まりつつある。
 この辺鄙な時期に入会してくること自体、少し珍しい。
 それも友達連れというわけでもなく、単身乗り込みだ。
 余程の理由があるに違いないと、高を括り聞いてみた結果がコレだ。
 端から疚しさや罪悪感などあったものではない。
 ここまであっけらかんとしていると、むしろ清々しい。

「あっ! 言っとくけど、アタシ()()映画、好きだからね!?」

 メンバー全員の前で高らかに弁明するのは良いが、余計な副詞のせいで疑念は高まるばかりである。
 俺たちの他所者を見る目に耐えかね、彼女はこの英研に辿り着くに至った経緯を話し出した。

 何でも彼女は、入学早々に季節外れのインフルエンザに罹ってしまい、所謂新歓コンパに参加できず、友達を作る機会を逃してしまった。
 また、運悪く症状は長引いてしまい、体が復調する頃には完全に取り残されてしまったようだ。
 彼女のような人間でもスタートダッシュに失敗するのかと思うと、少しだけ親近感が湧く。

「そうか……。そりゃ大変だったな」
「そうなの。だから未だに友達が居なくて……。他のサークルにも顔出してみたんだけど、もう仲良しグループとかも出来上がっちゃっててさ……。ここが最後の砦、って感じかな」

 それならば消去されたのは、むしろアナタの方では? という言葉が喉元まで出かかったが、既のところで飲み込む。

「……まぁそういう事情なら、な」
「あと、ホラ! ここだったらオタサーの姫的な存在になれるかなって!」
「本家のオタサーの姫はそんなこと言わねぇぞ……。あと、仮にお前がソレに該当するなら、今スグ追い出す。ヤツらは例外なくサークルクラッシャーだ」
「羽島くん、それは流石に偏見が過ぎるんじゃ……」

 副会長が苦笑いで、俺を諌めて来る。

「大丈夫、大丈夫! サークルをクラッシュするつもりはあるけどね!」
「よし、今スグ出てけ!」
「え〜、何でよ!」
「何でって、お前堂々と犯行予告してんじゃねぇか!」
「アタシが言ったクラッシュってのは、何ていうの……、ホラ! このサークルに革命を起こす! 的な?」
「革命って……。いいか? 生憎ウチのサークルは、ベンチャー気質の欠片もない、細く長くがモットーの伝統的な縦割り年功序列組織だ。向上心だとかチャレンジ精神だとか、そんなモンはそれぞれの実家の子供部屋で御ネンネしてんだよ。だから、俺たちにとってみれば、お前みたいなヤツは危険分子だな」
「羽島くん、ウチのサークルのことそんな風に思ってたんだね……」

 またしても副会長が、引きつった笑顔で言う。

「え〜! いいじゃんっ!! 変えてこうぜー! 一度しか無い人生、命燃やしてこーぜ! ねぇ、副会長さん!」
「え、えぇそうね……」

 不意打ちを食らった副会長は、咄嗟に目を逸らす。

「わーいっ! さっすが、副会長さん! 羽島っちと違って、話が分かる〜! そう言えば、副会長さんってお名前、何て言うんですか?」
「み、三原《みはら》よ。三原 心珠(みはら こだま)
「コダマさん、ですね! ヨロシクお願いします! コダマ副会長! あ、あとついでに会長さんは?」

 おい。それは流石にやめて差し上げろ。
 確かに副会長がなまじしっかりしているばかりに、その影に隠れてしまう部分はあるけど。

「ふ、福山 優輝(ふくやま ゆうき)です、よろしく」

「はい! ヨロシクお願いします! ()()()()!」

 まぁ、そこは……。もはや何も言うまい。

「と、ところでさ……。変えるって具体的に何を変えるつもりなのかな?」

 副会長は当然の疑問を、浜松にぶつける。
 彼女はしばらく考え込んだ後、勢いよく答える。

「えーっと……、ナニか!」
「ダメベンチャーの典型じゃねぇか……」
「とりあえず変えていくって意識が大事なのっ! ね? コダマさん!」
「あはは……。そ、そうかな?」
「そうだっ! もうすぐGWですよね!? せっかくだし、()()()の歓迎会と称して、旅行に行きませんか??」
「結局そんなモンかよ……。あとソレを言うなら、俺と他の一年も歓迎してくれ」
「よしっ! では先輩方! 私達一年生が責任を持って企画するので、先輩方は安心してお家へお帰り下さい。一年生諸君! 今から近くのファミレスで緊急ミーティングよ!」
「ソレ、もはや俺たちの歓迎会じゃないよね? それにしても随分急だな」

「こういうのはスグに行動に移すのが鉄則なの! 良い? 羽島っち。()()()()()()()()! だよ!」

 熱くなってるのは彼女だけだろう。
 だが何故か俺たちは、この頭のオカシな女の勢いに抗うことが出来なかった。
 いや。抗わなかったと言う方が正解だろう。
 閉塞感とも違うが、皆心のどこかで刺激というか、非日常を求めていたのかもしれない。
 恐らく、俺自身も。