「おばあちゃん、今日雪降るかもらしいよ」
「あら、じゃあお夕飯は鍋にしようか」
 雪の予報があるくらいなので、今日はいつもよりずっと寒い。
「寒いから中に入ってていいよ」と言ったにもかかわらず、おばあちゃんはガーデンチェアに座って、こちらをずっと眺めている。
 私は少し照れくさく思いながらも、気持ちをこめて花を植えた。
 そんな私に、おばあちゃんはゆっくりとした口調で、あることを問いかけてきた。
「本当に、春以降永久コールドスリープになること、神代君には連絡しなくていいの?」
「うーん……」
 考えないようにすればするだけ、頭の中でずっとぐるぐるしていたことを聞かれて、私は黙りこくる。
 だって禄を目の前にして言ってしまったら、本当のお別れになってしまうみたいで、つらい。
 家族と会えなくなることだけでもいっぱいいっぱいなのに、禄に直接伝えたら私は絶対泣いてしまう。そんな弱いところ、もうこれ以上彼に見せられない。
 病気を知って離れていった、中学時代の友人の美香が頭の中をよぎる。
 重くなって離れられるくらいなら、自分から姿を消した方が楽だ。
 ずるくて、臆病でごめんね、禄。
「禄にはもう、私を忘れて生きていってほしい」
「青花……」
「ていうか、そんなこと願わなくても、自然と忘れていくと思うし!」
 苦笑交じりの言葉を返すと、おばあちゃんは切なげに眉を下げる。
 話しながら全てのお花を植え終えた私は、空っぽになった苗のかごを門の近くに片付けた。
 泣かないように、ぐっと唇を噛み締める。
 大丈夫、眠ってしまえば、涙も出なくなるから。それまでの辛抱だ。
 ふと白いものが視界を遮って、何となく視線を上げる。
「あれ、もう雪が……え」
禄に会いたいという気持ちが強すぎて、とうとう幻覚でも見えてしまったのだろうか。門の外に、ひとりの男子が見える。
 一度目を擦るけれど、そこにはたしかに、紺色のマフラーを巻いた禄がいた。
「青花」
「え、なんで……」
 すぐに門を開けると、禄は白い息を吐きながら、そっと私の名前を呼ぶ。
 空から舞い降りてくる羽みたいな雪が、禄の真っ黒な髪の毛にふわりふわりと着地した。予報では夜に降る予定だったのに。
 いや、そんなことは今、どうでもいい。
 どうして、こんなタイミングで……。
「ごめん、突然……。でも、今日は金曜だったから」