私が永久コールドスリープに入ると決まった日から、お父さんは朝食を必ず一緒に取るようになった。
 こんなこと今までなかったので、何だか少し気恥ずかしい。
 おばあちゃんも席に着いたところで、私はお父さんに率直な質問をした。
「ねぇ、こんなゆっくりで診察大丈夫なの?」
「朝の事務作業はスタッフに任せてある」
「ふぅん、そうなんだ」
 会話、終了。お父さんとの会話がポンポン続いたことなんて、一度もない。
 私はサクサクのクロワッサンを一口サイズにちぎって、口に入れた。
 とても有名なパン屋のクロワッサンで、幼い頃からの私の大好物。いつも朝食は食パンなのに、おばあちゃんがわざわざ朝から買いに行ってくれたんだろうか。
 このパンをこうして食べられるのも、あと数回。
 私が目覚める頃にはきっと、あのパン屋もさすがに潰れてるだろうし。なんて。
「青花、今日はお花の植え替えを手伝ってくれる? 寒いからしっかり防寒して」
 おばあちゃんのお願いに、私は「うん、分かった」と即答する。
 学校も行ってなくて、どうせ暇だし。
「青花は、家にいる間何をやってるんだ」
 突然そんなことを、お父さんから質問された。
「え?」
「ずいぶん集中して何かをやってると聞いたが……」
 おばあちゃんから聞いたのか。
 突然話題を振られて驚きつつも、私は素直に答えた。
「ゲーム作ってるの。友達への日頃のお礼的なプレゼントとして」
「ゲーム? 青花、プログラミングなんてできるのか」
「あ、違う違う。私が作ってるのは子供でも作れる、フォーマットありの選択ゲームで、コードなんて書けないよ」
「そんなものが今はあるのか」
 お父さんは少し目を丸くして、意外な表情をしている。
 ただのゲーマー娘だと思っていただろうから、驚いたのかもしれない。
 いつも難しい顔をしているお父さんの顔が崩れているのが、少し面白い。
 お父さんに対しては苦手意識が強かったけれど、いざ当分会えないかもしれないと思うと、気持が丸くなってくる。不思議だ。
 病気が分かる前は、勉強のことで相当プレッシャーをかけられたり、かと思いきやそのほかのことは超放任主義で、大切にされてるかどうか分からなかったりで、グレかけたこともあったけど。
 でももう今は、全部いい意味でどうでもいいと思えているのかもしれない。