嘘だ。そんな奇跡、本当は全然信じきれていない。
 だって私の現実は、いつもいつも短かった。残酷だった。
 強がっていたはずなのに、簡単に本心があふれ出てしまう。
「おばあちゃんっ、私、本当は嫌だよ……嫌だ……」
「青花っ……」
 泣き声を押し殺すように、そうつぶやいた。
 小さな子供みたいにおばあちゃんにしがみついて、枯れるほど泣いた。



 翌日、涙で目を腫らしすぎた私は、学校をそのまま休んだ。
 先生にもお父さんにも、行かなくてもいいと言われ、全部私の体調に任せるとのことだった。
 貴重な一週間なのに、私は火曜日も水曜日も木曜日も学校を休んだ。
 できるだけおばあちゃんと一緒に過ごして、禄に贈るゲームの制作に没頭していた。
 正直、永久コールドスリープのことは、まだ受け止めきれていない。
 こんな不安定な状態で、禄に合わせる顔がなかった。というよりも、もう二度と会えないかもしれない禄と会うことが怖かった。
 彼に会ったら、決意が揺らいでしまいそうで。
 禄からは【体調どう?】と毎日メッセージが届いていたけれど、私は【まだ悪くて】と返し続けている。
 寂しくなったら、師走の動画を観て禄の声を聞いていた。
 そんな様子をおばあちゃんはとても心配していたようだけど、私は今禄に会って、何て言ったらいいのかひとつも思い浮かばない。
 春を過ぎたら、もう二度と目を覚ませないかもしれないなんて。
「青花、今日も学校は休む?」
 金曜日の朝、ベッドからちょうど起きた頃に、おばあちゃんがドアの隙間からひっそり訊ねてきた。
 私は重たい布団を足元に丸めて、ベッドから出る。
「うん、今日もお休みしようかな。なるべく家で過ごしたいし」
「そう……、朝食できてるわよ」
 おばあちゃんは何か言いたげな表情をしていたけれど、目尻に皺を寄せてにこっと微笑んだ。
 ドアの隙間から漂う美味しい匂いにつられて、私はパジャマ姿で一階へと向かった。
 ダイニングテーブルには、焼きたてのクロワッサンとサラダ、スクランブルエッグが並んでいる。
 そして、難しい顔をしたお父さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「……おはよ」
 私は素っ気なく挨拶をして、席に着く。お父さんはちらっとこっちを見てから、「ああ」と低い声を出した。