「いきなりこんなことを提案されても、心の準備が必要なのは当然です。……でも、もうそんなに時間はかけていられないのも事実です」
「先生、私まだ全然……」
「コールドスリープ自体に反対の声も多いけれど、この治療は鶴咲さんを未来に近づけられると信じています」
 苦しそうに目を伏せ、沈痛な表情を浮かべる先生。
 私は言いかけた言葉を、一旦のみ込む。
「青花が助かる未来が、あるんですね……?」
 隣でずっと泣いていたおばあちゃんが、突然震えた声で先生に問いかけた。
「青花が少しでも元気になる未来が、可能性としてあるんですね……?」
「……ええ、今、学会で鋭意研究を進めています。具体的にいつになるかは正直まだ分かりませんが、進んでいることはたしかです」
「よかった、青花は助かるんですね……っ」
 先生の言葉に、おばあちゃんは泣き崩れる。その姿を見ていたら、胸がぎゅっと苦しくなった。
 私に、心から生きてほしいと、願う人がいる。
その事実が、今目の前にある。
言葉が出ない。胸が痛い。どうしたらいいのか分からない。
「おばあちゃん、泣かないで……っ」
禄の顔が、突然ふと頭の中に浮かんだ。
だけど、私は選ばなくてはならない。何を選択して、生きていくのかを。
「守倉先生、ご提案ありがとうございます。三人で考えてみます」
 お父さんが静かに頭を下げて、「青花、行こう」と私の肩を抱いた。
 私は心ここにあらずのまま、まるで幽体離脱してしまったみたいに、ただ言われるがままに体を動かす。
 病室を出ると、目を真っ赤にしたおばあちゃんが、私を強く抱き締めてくれた。
「こんなこと選ばせてごめんねぇ、青花……っ」
 そう言われて、余計に涙があふれ出た。
 でももう、本当は、答えはほとんど決まっていた。
 こんなに私の未来を願ってくれる人がいるのに、それを無下になんてできない。
「いいの、私、決めたから……」
 どうなるか全然分からないし、不安だらけだけど。
 少しでも、未来に近づける可能性があるのなら。
「おばあちゃん、お父さん、私、賭けてみるよ……っ」
 私は、あとたった十四日間しか二人と過ごせないんだ……。
 そう思うと、急に現実味を帯びてきて、目尻にじわっと涙がたまってきた。
「お、おばあちゃんが生きてる間に、治る可能性も全然ある、し……うっ……」