検査室を出た私は診察室でお父さんたちと合流し、X線CT画像を見て細かな説明を受けた。
「単刀直入に申しますと、近々四季コールドスリープは中断した方がいいです」
 あ……、本当に、そうなんだ。
 現実をなんとか受け入れようとするけれど、言葉が頭に入ってこない。他人事のように感じる。
「この前の発作はあくまできっかけで、じつは不安因子は今までもありました。鶴咲さんはまだ若いので、こちらも苦渋の決断ですが……」
「いえ、いいんです。元々私共は永久コールドスリープを考えていましたから……」
 申し訳なさそうにする守倉先生に、お父さんが冷静に言葉を返した。
 おばあちゃんは耐えきれなかったのか、啜り泣いている。
 看護師さん二人も、先生の背後でただ静かに見守っている。
「寝たり起きたりを繰り返すことを、鶴咲さんの心臓があと何度耐えられるのか、我々も未知数なのですが……」
「あと何回起きられますか」
 ようやく口を開いた私の質問に、守倉先生は難しそうな顔をする。
 ドクンドクンと緊張で心臓が脈打っているのが、鮮明に伝わってくる。
「次の春の目覚めで、最後にしましょう」
「春……」
 ――嘘だ。あまりに早い。
 頭の中が一気に空っぽになって、何も言葉が出てこない。
 想像以上に早い決断に、さすがのお父さんも言葉を失っている。
 ということは、私はあと十四日間しか、目を覚ましていられないんだ。
 治療法が見つかる、誰も知ることのない〝いつか〟まで、ずっと眠り続ける。
 現実味のない現実に、私は完全に打ちのめされてしまっていた。
 しかし、絶望している私に、守倉先生は力強く言葉を続けた。
「鶴咲さん。この話を突然したのにも訳があります。じつは、鶴咲さんの病の治療法のめどが立ちました。二十年後の治療実用化の見込みはかなり可能性が高いです。二十年待てばきっと治る……奇跡的に治験が進めば五年後の治療もあり得る」
「え……?」
「何度か目を覚まして命を削るより、一度永久コールドスリープに切り替えて、治療に賭けてみませんか」
〝今〟を捨てて、治療に賭ける……? 最長で、二十年も私は眠り続けるの……?
 想像もしていなかった提案に、私は言葉を失う。
 ちらっとお父さんとおばあちゃんを見ると、私と同じように驚き言葉を失っていた。