大きな災害ではない限り、原則、誰も勝手に起こせない。
 起きる間隔や回数を勝手に変えることは命に関わることだから、ということだった。このことは医療法で厳しく定められており、治療法が見つかった場合を除いて、何があっても例外は認められない。
 私は眠る前に、目を覚ます日付が細かく記載された同意書にサインをした。

 そうして、初めてのコールドスリープから約三ヶ月後。
九十日以上眠っていたとは思えないほど、あっさりと私は目を覚ました。
 季節は夏。目を開けたときに、見慣れた部屋ではなく、病院の天井が見えたことに一瞬戸惑ったけれど、おばあちゃんが泣きそうな顔をしながら私に駆け寄ってきた。
「おはよう、青花」
「おばあちゃん、おはよう」
 白髪をベリーショートカットにしている小さなおばあちゃんが、目尻をこれでもかというほど下げて笑っている。また少し髪の毛、切ったのかな。とんでもなく老けていたらどうしようと思っていたけれど、そりゃ三ヶ月じゃ変わらないよな。
「青花、お家に帰ってご飯食べよう。この一週間は普段通りに過ごしていいって」
「やったー! おばあちゃんの肉じゃが食べたい」
「うんうん、何でも作ってあげるから」
 私の初回の〝目覚めの一週〟は、食欲もあり気持ち的には元気だったものの、なかなか体力を取り戻すのに時間がかかり、歩行すら困難で、ほとんどリハビリで終わってしまった。
 普通に過ごしているときは気づかなかったけれど、一週間って、とんでもなく短い。
 二回目の目覚めでは、今度こそと意気込んで、イベントに遊びに行ったり、美味しいものを食べに行ったりと、いろいろ考えていたものの、結局体力の低下が著しく、どれも諦めた。
SNSで同世代の子が遊園地に行ったりダンスを踊ったりしている動画を観て、もうこの子たちと同じ環境にいることができないのだと実感し、ひっそりベッドで泣いた。
 普通のことが普通にできなくなる恐怖に、のみ込まれそうになる。
 そうか、コールドスリープを選んだあの瞬間から、私はもう、別世界に来てしまったんだ……。
 終わりの見えない絶望に、抗う気力もなくなっていく。
 仕方ない。私が選んだ道なのだから、仕方ない。私より重い病気の人だってこの世にはたくさんいるし、体が健康だって不幸な人もたくさんいる。