〝いつか〟を変えたいと心で思っているのなら、〝今〟動くしかないんだ。
「ほかに何か言いたいことがあるなら、何でも全部聞くよ」
「は……?」
 予想外の言葉だったのだろうか、俊也は明らかに眉を顰めている。
 皿の破片を全部拾い集めた俺は、すっと立ち上がって、俊也のことをまっすぐ見つめた。
「俺は、俊也に何を言われても、全部許せる」
「何だよ、それ……」
「俺とお前は、家族だから」
 そう言いきると、俊也は一瞬だけ眉をピクッと動かした。
 どんな言葉なら届くのか、正直分からない。俺たち家族は、この割れたお皿のように、もう元には戻れないのかもしれない。
 割れた事実は消せない。だけど、ただ違う形になっただけだと……そう思える日が来るかもしれない。
「血が繋がってるから許すとかじゃない。俺がお前を家族だと思ってるから、全部許せる」
「許すのは俺の方だろ、頭おかしいのかよ……」
「じゃあなんでそんなに、罪悪感に満ちた顔してんだよ」
 指摘すると、俊也は小さく動揺した声を漏らした。それからうつむいて、荒らされた床をぼうっと見つめる。
 俺は語りかけるでも、ひとり言を言うでもなく、ただ、自分の気持ちに素直になることだけに集中した。
「いろんな問題を見過ごしてきたから……、取り返しのつかないこともあると思う。でも、もう少しマシな家族になれるよう、これからは俺も一緒に頑張りたい」
「今さら……遅すぎんだろ」
 うつむきながら嘆く俊也に、俺は苦笑交じりに言葉を返した。割れたお皿の破片を、どうにか床の上で繋げながら。
「俊也。きっとそんなすぐには、人生終わらないよ。よくも悪くも」
 何があるか分からないけれど、どんな不幸があろうとなかろうと、人生は今を積み重ねながら続いていく。
 上手くいったり、いかなかったりを繰り返しながら。
 きっと俺たち家族は、劇的に改善することはないだろう。
 俺も俊也も、いつかこの家を出ていく。放っといても離れ離れになる。
 それまで耐えていたら見過ごせていた問題だったかもしれない。
 だけど、俺は今、俊也がここで爆発してくれてよかったと感じている。
 とっくに壊れてるなら壊れてるで、それを知った上で、生きていく術がきっとあると思うから。
「俊也、あなたの学費は、禄が援助してくれるのよ……」