おばあちゃんは実の息子であるお父さんを少し睨んで、「まずは青花の気持ちを聞きましょうよ」と言ってくれた。
 私だってまだ、混乱している最中だ。
 正直に言うと、まだ実感が湧かない、というのが一番近い。
 だってやりたいこともたくさんあるし、全部がこれからというときだったのに。
 病気のことを宣告されたときにまず思ったのは、『これは夢だよね?』だった。
 全部夢で、今日寝たら明日にはいつもの日常に戻っていると思っていた。
 友達とくだらない動画を観て笑って、家に着いたら速攻で課題を終わらせて、お風呂の中でもアプリゲームをして、深夜まで師走のゲーム動画を観て……。
 信じたくない気持ちと、襲ってくる絶望感。眠れない日々。
 でももう、決断のときが来てしまったんだ。
「四季コールドスリープならいい」
 私は、最近ニュースで見た新たな凍結法を、真剣な顔で口にした。
 お父さんとおばあちゃんは目を丸くしながらこっちを見て、言葉の続きを待っている。
「年に四回目を覚まさしてくれるのなら、コールドスリープの処置受ける」
「青花……」
 お父さんは私の名を呼んで、まだ何か言いたげな顔をしていたけれど、ぐっと言葉をのみ込む。
 もちろん途中で目覚めると体に負荷がかかるし、ずっと凍っている方が確実に病の進行を食い止められる。何より、本当に最近テスト的に始まった処置だから、そのやり方には賛否両論があるのだ。
 それでも私は、できる限り〝今〟を見ていたいと思う。
 たったひとり世界に置き去りにされるなんて嫌だ。
「……分かった。担当医に相談してみよう」
 お父さんの言葉に、私は静かに頷いた。
 そうして、私の〝四季ごとに一週間しか目を覚ませない生活〟が始まったのだ。

「それでは目を閉じて、三、二、一で吸ってください」
 看護師さんの言葉に目を閉じ息を吸うと、私はパタッと意識を失う。
 一回目のコールドスリープは、高校一年の四月から行われた。
 四季コールドスリープは、名前の通り四季ごとに目覚めて現実の時間経過とのギャップを減らすためのもの。
 目覚める日は基本的に固定のパターンから選ぶことになっているが、私は四月、七月、十月、一月を選んだ。
 その際、慎重に選ぶようにと念押しされたけれど、それには理由があり、〝絶対に本人が決めた日以外には目を覚まさせることはできないから〟だった。