カーテンが開いて、保健室の先生が入って来た。そして、私を安心させるように問いかける。
 私はふるふると首を横に振って「もう大丈夫です」と答えたけれど、先生とそのうしろにいる禄は心配そうな顔をしている。
「十分後には救急車が到着するらしいから、もう少し待っていて。私は校門まで救急隊の人を迎えにいってくるから、その間神代君よろしくね」
「はい、分かりました」
 会話を聞きながら、私は少しずつ意識をしっかりさせようと、指先に力を入れたり、深呼吸をしたりする。
 静かな保健室に二人きりになって、私は改めて禄の顔を見つめた。
「驚いた……。女性の叫び声が聞こえて、近寄ったら青花が倒れてた」
 消えてしまいそうなほど、弱々しい声。ものすごく心配をかけてしまったことに、罪悪感を抱く。
「怖かった、すごく……。ごめん、ずっと、そばにいる約束だったのに」
「禄のせいじゃないよ」
 そう言いきると、禄は「でも」と首を横に振る。私は何て声をかけたらいいのか考えて、ひとまず倒れてしまった経緯を説明しようとした。
「ごめんね、人ごみにいすぎて疲れてたみたい。私がはしゃぎすぎたんだ」
 木下たちのことは、伝えない。
 もし禄がこのことを知ったら、今度は禄が無茶をしてしまうと思うから。
 どうにか禄が自分を責めすぎないようにしたいけれど、上手く言葉が見つからない。
「怖かった……、もう二度と青花が目を覚まさなかったらどうしようって」
 禄が、私を切なげに見つめながらぽつりとつぶやく。
 長い前髪のせいではっきり見えないけれど、彼の瞳は少し濡れている気がする。
 こんなにも私がいなくなることを恐れてくれる人が、いるんだ。不謹慎にも、そんなことで心臓が少し高鳴った。
「ごめん、青花の方が、怖かったよね」
「ううん、禄がすぐに来てくれたから……」
 安心させるように笑おうとしたけれど、なぜか頬が濡れていることに気づいた。
 不思議に思い中指を肌に滑らせると、それは目から流れていた。
 痛くて泣いたのか、怖くて泣いたのか、不安で泣いたのか。
 分からないけれど、自分が泣いていると分かった途端、ポロポロと涙の粒があふれ出てくる。
「おかしいな、ごめん……」
 禄は何も言わずにそんな私を見守ってくれて、そばにティッシュを置いてくれた。