「俺さ、二個下の弟がいるんだけど、ずっと不仲なの放置してたんだ」
「えっ、そうなの? 初耳だよ」
 青花は驚いたように声を上げて、目を見開いている。
「うん、でも、ちょっと頑張ろうかと思って」
 まるで誓うようにそう伝えると、青花は「ふーん?」とよく分かっていないような相槌を打つ。そりゃそうだ。
 唐突な宣言に戸惑わせてしまったと思い、俺はそろそろ持ち場に戻ろうと提案しようとした。その矢先、青花はすっと右手を上げて、何かを宣言するようなポーズを取る。
「じゃあ私も、お父さんとのこと、もう少し頑張ろうかな」
「え……?」
「私もお父さんとギクシャクしてるの。でもおばあちゃんももういい年だし、安心させてあげないとね。禄も頑張るなら、私も一緒に頑張ってみようかな」
 どうして青花もそんな風に思ったのかは分からないけれど、「一緒に頑張る」という言葉は心強い気がした。
 俺は深く追及せずに、「そっか」とだけ返して、人ごみの方へ歩みを進める。
 きっと俺は、青花のほとんどをまだ知らない。分かっていない。
 だけど、そばにいることだけは、彼女が求めてくれる限り、きっとできる。
 季節が巡るたびに青花のことを思い出す。それは、本当に本当だよ。絶対と言えることなんかない世界で、それだけは、絶対だと言える。

「あ、ゲーム配信コラボのメールが来てる」
 サボっていた分を取り戻すように、最後の三十分間頑張って集客をした俺たちは、ようやく当番を終えて看板を次の人に任せた。
 あとはゆっくり見れなかった各クラスの出し物を見て回ろうとしていたところで、スマホが震えたのだ。
 メールの送り主を見てひっくり返るほど驚いた。
 なぜなら、ずっと自分がファンだったゲーム実況者からのメールだったから。
「えっ、〝ガンクロ〟さんからコラボ配信の依頼が来た……」
「ええ⁉ それすごくない?」
 自分もまだ信じられていないような口調でぼそっとつぶやくと、青花は俺以上に驚いたリアクションを取ってくれた。
 ガンクロさんは登録者百万人超えの人気配信者で、自分なんかには手の届かない存在だと思っていた人。
「早めに返信した方がいいんじゃない?」
 青花の提案に、俺は動揺した声で返す。
「い、今メール返してきてもいいかな?」
「もちろん! うわーすごいな、いいなー」