教室内はリーダーシップのある桐生が皆をまとめていて、『売り上げ一位を目指そう』と盛り上がっていた。
 普段は比較的真面目な皆なのに、女子は目元にキラキラしたシールを貼っていたり、男子はいつも以上に髪の毛のセットに気合いを入れていたり、中にはコスプレをしている人もいる。
 全くいつも通りの格好で登校した俺たちは、生徒たちの気合いの入れように若干気後れしていた。
「文化祭って、こういう感じなんだね?」
「いや、俺も今年初めて参加したから……」
「あ! ベビーカステラ食べたい!」
 青花ははしゃいだ犬のように自由に移動して、すっかり宣伝のことなんか忘れている。
 引き止めようとしたけれど、青花は看板を俺に預けてあっという間に店をやっている教室に入り、紙コップに入ってるベビーカステラを持って戻って来た。
「たまに食べると美味しいー。はい、禄も食べる?」
 当然のように青花が楊枝に刺したベビーカステラを俺の口に運ぼうとしたので、その場に固まる。
 青花も数秒後に気づいたようで、ハッとしたように「ごめん」とつぶやいた。
「ろ、禄、看板持ってたからつい! はい、預かるよ」
「う、うん、ありがとう」
 看板とベビーカステラを交換して、俺は甘くて丸い食べ物を口に運ぶ。チョコソースの上にカラースプレーがかかったベビーカステラは想像以上に甘くて、一気に目が覚める。
 当番の最中なのにこんな風に遊んでいたら怒られるのではないかと思ったけれど、青花が楽しそうだから何でもいいと思えてきた。
「ちょっと疲れた、これ一緒に食べながらどこかで休もうよ」
「分かった、ちょっと移動しようか」
 俺たちは人通りの少ない廊下に移動して、立ちながらベビーカステラを一緒に頬張った。
 窓の外では木の葉が、日の光をたっぷりと受け止めてべっこう色に輝いている。
 人の多さに気疲れした俺たちは、窓枠に肘をつけて外の景色をぼうっと眺めた。
「季節ごとに目を覚ますようになって、改めて日本の四季の変化ってすごいなーって思ったんだよね」
 旗が付いた楊枝をくるくるさせながら、突然語り始める青花。
 俺は黙って、彼女の言葉に耳を傾ける。