そう言うと、母親は何かに気づいたように「悪いこと言っちゃったかしら……」とぼそっとつぶやく。
俊也が本当にその言葉を気にしていたかどうかは分からないけれど、俺の方が〝優遇〟されていると思っていることは事実だ。
すっかり気弱になっている母親に、俺は少し付け足した。
「母さんは俺に期待してるのかもしれないけど、俊也の方がきっと社会では活躍するよ。俺、中学の後半から今まで、ほとんど友達いないから」
「え、そうなの……?」
「俊也は明るいし、社交的だし、空気も読める。俺がM学園受けないって言ったとき、家が地獄みたいな空気になったけど、フォローしてくれたのは俊也だろ」
そうだ。あのとき俊也はまだ中一だったけど、ずっと不機嫌で何も話さなくなった母親を、必死にとりなしてくれていた。
俺はずるいから、自室に逃げっぱなしだった。
担任にカンニングを疑われたことも、伊勢谷に裏切られたことも、木下たちに暴力を受けていたことも、だるくて何も話さなかった。
生きることが面倒で、自己肯定感なんて言葉見るだけで寒気がして、人に共感もされたくないし、したくもなくて。
でもそんなことを、母親は一ミリも知らない。
「俊也は、俺なんかより本気でM学園目指してる。学費がもし足りないんだったら少しは出すから、受けさせてやって」
そう言うと、母親はショックを受けたまま黙ってその場に立ち尽くしていた。
俺はそれ以上何も言わずに、バタンとドアを閉めて、自分の部屋にこもった。
〇
ひとつひとつ、見て見ぬふりをしていたことに向き合いたい。
そんな風に思えるようになったのは、間違いなく青花と出会ってからだ。
ただ生きているだけだった前までの俺は、何にも関心がなかった。
だけど、限られた時間の中で自分らしく生きている青花を見て、少しずつ心が溶かされていくのを感じている。
「うわー、本当にお客さんが来てる……」
青花は群衆を見ながら、ぽつりとひとり言のようにつぶやいた。
外部の人であふれ返った校内は非日常的で、たしかにお祭り感がある。
いたるところ活気にあふれた様子を見て、俺と青花は正直圧倒されていた。
接客や調理場ではなく、宣伝係を任された俺たちは、自分たちで作った『2―Bあつあつたこ焼き屋』と書かれたA3サイズの看板を持って校内をただ練り歩いている。
俊也が本当にその言葉を気にしていたかどうかは分からないけれど、俺の方が〝優遇〟されていると思っていることは事実だ。
すっかり気弱になっている母親に、俺は少し付け足した。
「母さんは俺に期待してるのかもしれないけど、俊也の方がきっと社会では活躍するよ。俺、中学の後半から今まで、ほとんど友達いないから」
「え、そうなの……?」
「俊也は明るいし、社交的だし、空気も読める。俺がM学園受けないって言ったとき、家が地獄みたいな空気になったけど、フォローしてくれたのは俊也だろ」
そうだ。あのとき俊也はまだ中一だったけど、ずっと不機嫌で何も話さなくなった母親を、必死にとりなしてくれていた。
俺はずるいから、自室に逃げっぱなしだった。
担任にカンニングを疑われたことも、伊勢谷に裏切られたことも、木下たちに暴力を受けていたことも、だるくて何も話さなかった。
生きることが面倒で、自己肯定感なんて言葉見るだけで寒気がして、人に共感もされたくないし、したくもなくて。
でもそんなことを、母親は一ミリも知らない。
「俊也は、俺なんかより本気でM学園目指してる。学費がもし足りないんだったら少しは出すから、受けさせてやって」
そう言うと、母親はショックを受けたまま黙ってその場に立ち尽くしていた。
俺はそれ以上何も言わずに、バタンとドアを閉めて、自分の部屋にこもった。
〇
ひとつひとつ、見て見ぬふりをしていたことに向き合いたい。
そんな風に思えるようになったのは、間違いなく青花と出会ってからだ。
ただ生きているだけだった前までの俺は、何にも関心がなかった。
だけど、限られた時間の中で自分らしく生きている青花を見て、少しずつ心が溶かされていくのを感じている。
「うわー、本当にお客さんが来てる……」
青花は群衆を見ながら、ぽつりとひとり言のようにつぶやいた。
外部の人であふれ返った校内は非日常的で、たしかにお祭り感がある。
いたるところ活気にあふれた様子を見て、俺と青花は正直圧倒されていた。
接客や調理場ではなく、宣伝係を任された俺たちは、自分たちで作った『2―Bあつあつたこ焼き屋』と書かれたA3サイズの看板を持って校内をただ練り歩いている。