すべての季節に君だけがいた

 案の定禄は驚いた顔をしていて、丸い目で私を見ている。
 実質私が眠りに入るのは日曜日の夜だし、土曜日まで一緒にいることは可能なのだ。
 でも、長時間外で行動して、心臓の病気が起こったら危ないから……という理由で前泊している。
 子供みたいなわがままを言う私を見つめながら、禄は落ち着いた声で問いかけた。
「土曜日も、外出は許可されてるの?」
「されてない……、でも守倉先生に無理やり頼んだら行けるかもしれない」
 正論を言われてしまい、私は少しだけムキになる。
「でももし何かあったら」
「禄はいいよね、時間がたくさんあるから!」
 思ってもいないことを言ってしまい、私はハッとして口を両手で押さえる。
 最悪だ、八つ当たりだ、こんなの。
 禄に嫌われた、と思ったけれど、彼は少しも表情を変えていなかった。
「分かった、じゃあずっと、一緒に行動しよう。もし、青花の家族や、お医者さんがいいって言ったら」
「え……?」
「何か……、俺はとくに楽しい思い出とかないけど、まさかそこまで青花が文化祭に思い入れがあるなんて」
 斜め上の回答に、私は今、相当間抜けな顔をしていると思う。
 今の私の態度にイラッとしてもおかしくないのに……。禄は全然怒っていない。
 でも、はからずも文化祭で禄と一緒に行動できることになっていた。
「い、いいの……?」
 戸惑いながら問いかけると、禄は「うん」と当然のように頷く。
「本当は当番終わったらすぐ帰ろうと思ってたくらいだし」
「え、ええー……出ないの? 文化祭」
 禄に友達ができちゃうかも……なんて心配していた自分が恥ずかしい。
 そうだった、禄は基本的に面倒くさがりなのを忘れていた。
 思わずふっと笑みがこぼれてしまう。そんな私を見て、禄はさらに不思議そうな顔をする。
「何、今日の青花、ちょっと変だね」
「だって禄が禄すぎて……ふふっ」
 私は一通り笑い終えてから、ようやく呼吸を整える。
 そして、右手をゆっくり上げて、禄に笑いかけた。
「また明日ね、禄」
「うん、また明日」
 いつも金曜日はここでお別れのはずなのに。
 また明日も会えるかもしれないと思うと、気持ちが弾んだ。

 お父さんが帰ってきて早々、私は明日の半日だけ外出したいことを伝えた。
 なるべく空気が和やかで、おばあちゃんがそばにいてくれる夕食中にお願いしようと決めていた。