「あれ、今何時……」
 桐生君との一悶着を終えて疲れていたのか、禄と一緒に帰って来て、いつの間にか寝てしまっていた私は、スマホで時間を確認する。
 時刻は十九時で、まもなく夕飯の時間だ。
 ずっと、懐かしい夢を見ていた気がする。
 あれからもう一年が過ぎたという事実が、信じられない。
 今日はもう時間が遅かったこともあり、ゲームをせずに解散してしまったけれど、寝て起きても頭の中は禄でいっぱいだ。
 私は体を起こして、師走のチャンネルを開いてみる。
「登録者数、また増えてる……」
 一年前はまだそこまでの知名度じゃなかったのに、今は著名な実況者ともコラボできるくらいになっている。
 こんなに遠い存在の禄と出会えたことは、まさに奇跡そのもの。
 寝て起きてゲームを繰り返していた私の目の前に、突然現れた彗星みたいな存在。
『信じてもらえないかもだけど、じ、じつは俺、〝師走〟なんだよね』
 あの時、最初は何を言ってるのかと思った。
 この人は師走? そんな奇跡ある?って。
 だけど、話せば話すほど、この人が師走だと確信できた。
 人嫌いそうなのに、相手の気持ちを考えて話しているところ、人のために怒れるところ。
 一緒に過ごせば過ごすほど、この人が師走でよかったと思えた。
 禄といる時間は、本当に夢のように幸せで、鮮やかで。
『私が起きるの、待っててくれるの?』
『待ってるよ。昨日のことのように、今日を覚えておくから』
 これ以上ない言葉を、私にくれた。
 世界に置き去りにされることを恐れていた私を、見つけてくれた。
 禄と出会えたこと。
 これ以上の奇跡が、あるはずがない。
 間違いなく、そう思える。
 そう思っていることを、私はいつか、禄に伝えてもいいのかな。
 分からなくて、胸が苦しくなった。
 生きている限り、禄が私のことを覚えていてくれる限り、禄の瞳に映っていたい。
「禄……、私のこと、どんなに時間が過ぎても忘れないで……っ」
 スマホ越しに、ほとんど願うみたいに、そっとつぶやいた。

 中学生のときは全く理解できなかった気持ちが、今痛いほどに分かる。
 禄を好きになる理由なんて、本当はもう、何十個だって挙げられるんだ。