「私、高校生になったら、あんまりメッセージ返せないと思う。じつは心臓に病気があって、コールドスリープすることになったの」
「え……?」
 勇気を出して打ち明けると、美香は瞳を大きく見開いて固まった。
「コールドスリープって、今ニュースとかでも話題の、あの……?」
「私が受けるのは、四季ごとに目を覚ます凍結法なんだけど」
「だって病気って、今までそんなこと一度も……」
 ショックを受けたように唇を震わせる美香。
 私は「言い出すタイミング分からなくて、今日になってごめんね」と謝る。
 美香は頭をぶんぶんと横に振って、私の手を強く握り締めた。
「話してくれてありがとう。でも、目を覚ましてる間は普通に会えたりできるんだよね……?」
「うん、今も話す分には全然大丈夫だし、急に悪くなるような病気じゃないから」
「そっか……。かける言葉が見つからないけど……」
 しばしの沈黙。笑顔ではしゃいでいる生徒たちとは正反対の重苦しい空気が、私たちの間にだけ流れている。
 私が何か話さなければと口を開こうとすると、美香がそれを遮った。
「会いに行くからね、コールドスリープになっても」
「美香……」
「病気になっても、変わらず仲良くしてね」
 そう言って笑う美香を見て、思わず涙腺が緩む。
 話せてよかった。本当にそう思えた。
 ほかの誰にも打ち明けるつもりはなかったけど、美香には話してよかった。
 私が寝ている間に、同級生の皆はどんどん成長していって、新しい世界を広げて、中学校でのことを全部思い出に変えて、生きていく。
 そのことに、どうしようもない不安と焦りがあった。
 でも、美香がいればいい。大切な子がひとり、私のことを忘れないでいてくれたら、それでいい。
 私は美香の手を強く握り返した。
「ありがとう、美香」
「ずっと友達だよ、青花」
 桜の花びらが私たちの間を横切る。
 美香のツインテールの髪の毛が風になびいて、とても綺麗だと思った。
 ほかの誰に忘れられたって、美香がいてくれたら――。
 そう思えた、三月の出来事だった。

 高校生になってからも、美香とのメッセージのやりとりは続けていた。
【今日友達とクレープ食べに行ったよー! 美味しそうでしょ?】
【すごい、美味しそう!】
【明日は映画観にいくんだ。最近かっこいいと思ってた人に誘われてさー】